第35話

 あの秋葉原のダンジョンに探索に行ってから少し経ったある日。


「そういえばあのモンスターを倒した時のポイントってどうなってるんだろう?」


 僕のスキル『魔剣創造』はモンスターを倒すことでポイントを貯め、そのポイントで僕に対する追加効果を付与することが出来る。この前のように皆でモンスターと戦った場合はどうなるのだろうか?


「ねえ、アナウンスさん。今、質問しても大丈夫?」


「はい、大丈夫です。私はあなたの質問にいつでも答える用意があります」


 無機質な声が僕の頭の中に響き渡る。最初はこの声にも驚いていたけどもう慣れてしまった。今では関係ない時にも少し雑談したりしている。


「この前皆でモンスターと戦ったけど、ああいった場合ってポイントはどうなるの? やっぱりモンスターは一人で倒さないとポイントにならない?」


「いいえ、複数人でモンスターと戦って倒した場合でも経験値は入ります。ただ、一人で倒した場合よりも入るポイントの量は少なくなります」


 成程、ポイントは入るけれどやっぱり一人の時より獲得量は少ないのか。


「少なくなるって言ってもどんなふうに少なくなるの?」


「はい、具体的には戦闘に参加した人数だけ経験値が少なくなります。例えばこの前のサイクロプスをあなた一人ではなく、二人で倒したとします。そうするとサイクロプスを倒すことによって得られるポイントが2分の1になるのです」


「用は戦闘に参加した人数分少なくなるってことか。この前のサイクロプスを例に取ればあいつを倒すことで得たポイントは500ポイントだったから、さっきアナウンスさんの言った例に当てはめたら250ポイントしかもらえないってことだね」


「はい、その通りです」


 そうなってくるとポイントを獲得したい場合は他人と行動するよりは一人で行動してモンスターを倒したほうがいいってことか。皆には内緒で今度一人でダンジョンを探して潜ってみるか。


「マスター、危険なことを考えては駄目です」


「えっ?」


 アナウンスさんが僕のことを急にたしなめてくる。


「もしかして僕の考えていることが分かった?」


「はい、なんとなくですが推察出来ます。おそらくマスターはポイントをもっとも効率的に稼ぐ方法を考え、一人でダンジョンに潜り、モンスターを討伐することがもっとも良い方法とお考えになったのでしょう。しかしそれは助けてくれる人が周りにいないことも意味しています。ダンジョンではこの前のような予想外の事態が起こり得ますのでそれはやめたほうがいい」


「うっ……」


 アナウンスさんに完全に思考を読み解かれてしまっている。完全に効率の観点からしか考えていないことを見透かされてしまった。ポイントとか聞いてしまうとどうしてもどうやったら効率よく稼げるかを考えてしまうのはゲーム好きの性か。


「……確かにその通りだ。忠告ありがとう」


 僕は素直にアナウンスさんにお礼を言う。僕は探索者としてはまだまだ初心者なのだ。一人で行動して死んでしまうことがあるかもしれないし、ここはこの助言に従ったほうがいい。


「いいえ、お礼は結構です。あなたにアドバイスするのも私の役割ですので」


 アナウンスさんは無機質な声で当然のことをしたと言ってくる。出来る執事のような回答だった。


「というか、どうして僕の考えてることが分かったの? 頭の中を覗けたりする?」


「はい、私はマスターの考えを読むことが出来ます。すべてはあなたに適格なアドバイスを行うための機能です」


「うわ、本当に……」


 それ先に行って欲しかったな。いや今まで僕が困っている時になにかとアドバイスをしてくれたから冷静に考えれば推測出来たことだ。


「ご安心ください、私の声はマスター以外には聞こえませんので。マスターがなにを考えているか分かっても私は誰かに伝えることは出来ません」


「でもやっぱり恥ずかしいな」


 アナウンスさんが僕に害意がないとは言え、頭の中を見られるは気恥ずかしいものだ。


「あっ、いろいろと話が逸れた。本題に戻ろう、あのモンスターと戦って得たポイントについて教えて」


「はい、あのモンスターと戦って得たポイントは160ポイントです」


「160ポイントってことは元のポイントはサイクロプスと同じくらいってこと?」


「はい、その通りです」


 やっぱりあの謎のモンスターは強さとしては相当の強さだったらしい。でもこのポイントはどうやって計算してるんだろう……。


「まあ、そこは今考えなくてもいいか。このポイントで獲得出来る追加効果はある?」


「はい、獲得出来る効果の中でマスターの戦闘スタイルから考えたおすすめの追加効果を提示します」


 アナウンスさんがそういうと僕の目の前にゲームのステータス画面のようなウインドウが浮かび上がる。


「なになに……未来予測……今の情報を元に数十秒後の未来が見えるようになる。おお……!」


 確かにこれは便利な効果だ、剣を使って戦っているなら相手の攻撃が予測できるのはとてもありがたい。相手の攻撃を見切れるかは生存率にも関わってくるし。


「じゃあこれにする」


「了解しました。100ポイント消費して未来予測の追加効果を獲得します」


 これで今残っているポイントは60ポイントか。これはまた別の機会にとっておこう。


「ありがとう、便利な効果を教えてくれて。ところで気になってたんだけどどうして僕のことをマスターと呼んだの?」


 突っ込まないでいたけどアナウンスさんはなぜか今日の会話で僕をそう呼んでいたのだ。気になったので僕は尋ねてみた。


「私とあなたの関係を表すのにもっとも適切な言葉かと思いましたので。私はあなたを支えるものですから」


 なるほど主従関係として僕と自分自身の関係を捉えたのか、あながち間違ってもいない。


「じゃあこれからもよろしくね、頼りになるサポートさん」


「はい、おまかせください」


 僕の言葉を聞いたアナウンスさんはどこか機嫌がよさそうに思えた。

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