第32話
目玉が体中にある怪物は僕らのほうへとその目を向ける。
「いかん、気付かれた!」
岩代さんが声を上げると同時にその怪物は僕たちへと襲いかかってくる。とんでもない早さだった。
怪物はまず音を立てた和泉さんへと襲いかかろうとする、僕は手に魔剣を顕現させ、奴を斬りつけた後、和泉さんから引き離すために思い切り蹴り飛ばした。
「グモオオオオオオオオオオオ!!」
不快な雄叫びをあげながら怪物は後退する。僕は和泉さんを守るように彼女の前に立った。
「隠岐くん、ありがとう!」
「和泉さん、出雲さんと一緒に下がって!」
彼女のスキルは回復だし出雲さんのスキルも補助的なものだ、怪物と正面からやりあうものじゃない。それをこの場で出来るのは……。
「不知火さん!!」
僕は最も頼りになりそうと思った人間の名前を呼んだ。
「はいはい、結局こうなっちゃうのか。リーダー、仕方ないから戦っていいよね?」
「もうこの際仕方ないだろう。こいつはどこまでも俺達を追ってきそうだしな」
「じゃあ決まりだね」
「ただ、無理はするな。こいつの強さは未だはっきりとしていない、厳しいと思ったら引くぞ」
「了解」
不知火さんは岩代さんの許可を得るとそのまま僕の攻撃で怯んだ怪物に向かって突進し、相手に連続で蹴りを叩き込む。怪物はそれに怒り、触手のようなもので彼女へと攻撃を仕掛けてきた。その速度は恐ろしく速い。
「甘い」
怪物の触手が不知火さんに触れる直前で止まる。テレキネシスで彼女が止めたのだ。
「それ!」
その勢いのまま彼女はテレキネシスで怪物を浮かせ地面に叩きつける。僕は不知火さんが怪物と戦っている間に出雲さんと不知火さんの様子を確認した、どうやら二人とも不知火さんが戦い始めたのに合わせて退避をしたようだ。
「リーダー、隠岐くん今のうち!」
「はい!」
僕は不知火さんの言葉に合わせて行動を開始、彼女が叩きつけて動かなくなった怪物を魔剣で斬り刻む。
「グモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
痛みで悲鳴をあげた怪物は触手の一本を僕へ向かって叩きつけてきた。僕は恐ろしい速度で振り下ろされた触手をかろうじてかわす、触手は頬を掠り、切れた頬から血が流れた。
「っ……」
僕は内心冷や汗をかく。身体強化を使っていても一発でも当たればただでは済まなそうだった。
「隠岐くん、横へ飛べ!」
岩代さんが鋭い声で指示を飛ばす、僕はその言葉に従って横に飛んだ。直後、炎が僕のいた場所を通り過ぎ目玉の怪物を焼き払う。
「グギュアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
炎に焼かれた怪物はその場でのたうち回って苦しむ。
「パイロキネシス……!」
不知火さんが前に丹波くんに言っていたパイロキネシスのスキルを使う知り合いって岩代さんのことだったのか! 確かに彼よりも格段に威力は上だ。
「おいおい、これ結構全力で焼いたんだけどな」
岩代さんは自分の炎を喰らって怪物がまだ生きていることに唖然とする。確かに全身を焼かれてまだ生きているというのはまともではない。
「グモアアアアアアアアアアアア!!」
それどころか怪物は怒り狂い、触手の数をさらに増やして僕達へ攻撃をしてくる。その先端は先程と違い、刃物のように鋭い形状になっていた。
「うわ……!!」
なんとか直撃はかわしているけどかすったせいで傷を負う。
「しつこいな、この気持ち悪い化け物め」
苛立った不知火さんが言い放つ、彼女への触手攻撃はすべて当たる直前で止められていた。あの早さの攻撃をすべて止めているなんて恐ろしい精度のテレキネシスだ。
「いい加減くたばれ!」
彼女の言葉と共に目玉の怪物が吹き飛ばされダンジョンの壁に叩き付けられる。
「まだまだ!」
不知火さんは攻撃の手を緩めない。彼女はダンジョンの壁をテレキネシスで壊し、その壊れた壁を怪物に叩きつけた。
壁を上から叩きつけられた怪物はべしゃりと音を立てて潰れた。辺りには怪物の血が飛び散る。
「終わった……?」
「いや、まだよ」
僕の言葉を不知火さんは即座に否定する。岩で押しつぶされたはずの怪物が無傷で生きていた。
「なんで……!」
「どうやら潰れた瞬間に分裂でもしたみたいね。さっきより小さくなってる」
言われて見てよく見ると確かにさっき戦っていたやつより一回り小さくなっていた。
「厄介ですね」
「一撃で倒すしかないわね、これ」
「そうですね、さっきみたいに分裂して逃げる隙を与えないで倒すしかない」
「なら俺が絶命するまで焼き払うしかないな。隠岐くん、奴を小さな塊に斬り分けることはできるか? 君が奴を斬り刻んだ瞬間に俺が最大火力で焼く」
「分かりました」
「ならあたしが動きを止めるわ」
不知火さんが言葉と同時にテレキネシスを発動。相手の触手での攻撃を止めて、怪物を思い切り壁に叩きつける。叩きつけられた衝撃で奴の動きが止まった。
(今だ!)
僕は一気に怪物に向かって駆け出す。叩きつけられて動けなくなっている怪物を僕はひたすら斬った。
斬られる痛みで怪物は恐ろしい悲鳴をあげる。僕はそれに構わず、奴が小さな塊になるまで無心に斬り刻んだ。
「岩代さん、お願いします!」
これくらいに斬れば大丈夫だろうと判断した僕は岩代さんに合図し、その場から離脱する。
「よし、任せとけ」
業火が怪物を包み込んだ、怪物は恐ろしい雄叫びをあげていたがやがてその声も小さくなって聞こえなくなる。後にはなにも残らなかった。
「今度こそ終わりね。隠岐くん、お疲れ様」
不知火さんが僕の近くに寄ってきて労いの言葉をかけてくる。
「はい、お疲れ様です、不知火さん。岩代さんもお疲れ様でした」
「ああ、君のおかげでやつを灰にすることが出来た。しかしなんだったんだ、あいつは……」
「今まで見たことないモンスターね、あいつが噂になってたやつなんでしょうけど」
「凄く不気味な奴でしたね」
僕の言葉に二人も頷く、なんというか……自然に生きている生物という感じがしなかった。
「皆さん大丈夫ですか!?」
スキルが補助向きのため、退避していた和泉さんと出雲さんがこちらにやってきた。和泉さんは僕が傷を負っているのを見ると駆け寄ってきて治療を施す。
「皆、とりあえず今日はここまでにしておくぞ。今のモンスターのことをギルド本部に報告しないといけないからな」
岩代さんの言葉に全員が頷き、僕達はこの日の探索を終了するのだった。
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