第31話
「ここが……ダンジョン……」
打ち合わせの後、僕らはすぐに秋葉原のダンジョンに向かった。このダンジョンの内部はとても薄暗く視界が悪い洞窟だった。
ちなみにダンジョンにはもっと緑が豊かな森だったり、もっと過酷な環境な場所もある。なぜここまで環境が違うのかは誰も分かっていいない。
「二人共、ダンジョンは始めてなら俺や不知火、出雲から離れないでくれ。特にこのダンジョンは視界が悪いからはぐれたりすると探すのにも手間がかかるからな。助けたくとも助けられたくなる可能性が高い」
「「はい分かりました」」
岩代さんのアドバイスに僕と和泉さんは揃って返事をする。
「それじゃ、出発しましょう。梓、用意は?」
「もう出来ましたよ、ほら」
不知火さんがなにやら作業をしていた出雲さんに問いかける。彼女は最初全員のスマホを回収して一人でなにかをしていたのだけど、作業を終えたのかこちらに戻ってきた。
「はい、これ。私のスキルでダンジョン内でもチャットとかの機能を使えるようにしてあります。私のスキルの効果中は位置情報も機能するようになりますのでさっきリーダーが言ったように万が一はぐれたりした場合はそれを活用してください」
出雲さんはそう言って僕達にスマホを手渡してくる。最初は通信が通じていなかった自分のスマホも確かに電波を受信している。
「このスキルどんな仕組みなんですか?」
僕の質問に出雲さんは肩をすくめる。
「さあ? 私もスキルの根本的なことまでは分かりませんので。なにせ謎が多いですしね、スキルって。未だにどうすれば発現するかの明確な答えも出ていない」
「まあ、細かいことはいいじゃない。早くこのダンジョンを探索しましょう」
不知火さんが早く行こうと言わんばかりにダンジョンの奥へと歩き始める。僕達もそれに従って探索を開始した。
*
「それにしても静かですね」
ダンジョンの探索を開始してから少し時間が経った。これまでは換金出来そうな鉱石などを集めて順調に探索が進んでいる。僕達は一旦休憩を取ることを決め、休んでいた。
「すいません、皆さん。素人の僕が言うのもなんですけど……このダンジョンってなにかおかしくないですか?」
「隠岐さん、具体的にどこがおかしいと感じたのですか?」
僕の発言に興味を持ったのか出雲さんが尋ねてくる。
「えっとですね、僕はダンジョンがモンスターの巣窟だと聞いていました。だけど……僕達は今日モンスターに遭遇しましたか?」
「いいところに気がついてくれました、隠岐さん」
僕が提起した疑問に出雲さんが褒め言葉を送る。勘で思ったことを言っただけだけどやっぱりこの状況は異常事態らしい。
「まあ、モンスターに遭遇しないのはいいことです。ですがここまでモンスターがいないなんてことは今までなかった。隠岐さんの言う通りこの状況は妙ですよ」
出雲さんも首を傾げている。
「いつもはもっとモンスターが多いんですか?」
和泉さんが遠慮がちに尋ねる。彼女はまだ緊張しているみたいだ。
「ええ。なにせダンジョンはモンスターの住処ですから。進めば必ずなにかしらのモンスターには遭遇します。ですが今日はどんなモンスターにも遭遇しない」
「梓の言う通りよ。このダンジョンはなんだか妙だわ。ねえ、リーダー、例のモンスターが現れてからここのモンスターが減ったとかいう報告はないの?」
「いや、そう言った話はないな。なにせ帰ってきた冒険者も一人だけだし、パーティーも一方的にやられていてそのモンスターとの遭遇例はそれだけだからそれが理由で詳しくダンジョンを調べたりはしていない。ただ……」
岩代さんの顔が険しいものになる。
「この状況から見てそのモンスターがここのモンスターを皆殺し尽くしたとかも考えられるかもな」
「冗談でしょ、いくら強いっていってもそれほどの個体なんているわけない。そんなことが出来るのってSダンジョンにいるモンスターくらいでしょ。Aランクのモンスターといえども他のモンスターを全滅させるなんて真似ができるとは私には思えないわ」
「俺も自分の言ってることがむちゃくちゃなのは分かってるさ。ただ今ある情報から考えるとそうとしか思えなくてな。いずれにせよ、用心して進むほうがよさそうだ」
岩代さんの言葉に皆が頷く。ここから先はより注意して進んだほうがよさそうだ。
それから休憩を終えた僕達はダンジョンの深くまで進んでいった。そうしてある程度の深さまで到達した時、
「待て、なにかいる」
戦闘を進んでいた岩代さんが皆に注意を促す。その場にいた全員に緊張がはしった。
「なんだ……あれは」
岩代さんがなにかおぞましいものを見たといわんばかりの声を出した。
「なにか居たんですか?」
僕は岩代さんの後ろからそっと彼の視線の先にあるものを見た。
ーーそこにいたのは異形のモンスターだった。
体中に目玉が大量にあり、口や鼻はどこにあるのかは分からない。体はのっぺりとしていて血まみれになっていた。なまこに目玉がいっぱいついたような怪物というのが一番適切かもしれない。いずれにせよ普通の状況ではなかった。
「「……!!」」
僕の後ろでそのモンスターの姿を確認した他の3人が息を呑む音がする。
「……皆、一旦引くぞ。あれはやばい、面倒なことになるから絶対に関わらないほうがいい」
「……同感ね、まあやりあっても勝てないわけじゃないけど結構大変かも」
不知火さんが岩代さんの言葉に同意し、僕や和泉さん、出雲さんもそれに続いて岩代さんの言葉に頷く。あれは関わってはまずいモンスターなのが見ただけでひしひしと伝わってきた。
そのまま全員が元来た道を引き返そうと歩き出しーー。
「あっ!」
和泉さんが足下にあった少し大きな石をうっかり転がしてしまう。石の転がる音が辺りに響いた。
ぎょろり。
その音を聞いたあの不気味なモンスターが体のあちこちにある目玉を一斉にこちらへ向けてきた。
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