第30話

 それからしばらく僕は普通に高校生活を送っていた。丹波くんはしばらく休んでいたけど前のように僕に手を出してくることはなくなった。一緒にいた不知火さんにこてんぱんにされたこと、僕自身も彼から殴られた時に彼の攻撃を止めたことも大きいだろう。

 和泉さんも僕と同じでしばらくは普通に高校生活を送っていた。ただ少し雰囲気が明るくなった気がする。探索者として登録したあの日から不知火さんや和泉さんとは連絡ととって遊んだりしているらしく時々二人と遊んだ時の話を僕も聞かされる。


 そんな風に時間が過ぎていったある休日のこと。


「ん?」


 僕は自分のスマホを見て誰かから連絡が来ていることに気付く。連絡の主は……不知火さんだ。


「なんだろう?」


 チャットアプリを開き、連絡の内容を確認する。彼女から送られてきた連絡にはこう書かれていた。


「この前秋葉原に出現したダンジョンをリーダーが探索しようと考えてるの。このパーティーのメンバーでそのダンジョンを攻略するための打ち合わせをしようと思うから一旦ギルドの本部まで来て欲しい」


「……ダンジョン探索」


 探索者になって最初の仕事がやっと舞い込んできた。しかも場所はこの前僕がサイクロプスを倒した秋葉原のダンジョンらしい。


「……もっと怖いって感じるかと思ったけど意外と落ちついているな、僕」


 ダンジョンに初めて挑むのだ。恐怖を感じるかと思ったけど僕は酷く落ちついていた。むしろ自分の力を試せる機会を楽しいと思ってさえいる。


「……あまり調子に乗らないようにしよう」


 自分の力に溺れて破滅するなんてことは避けたい。僕は自分を戒めつつ、着替えを済ませてギルドの本部に向かった。



「あ、隠岐くん。おはよう」


 僕がギルド本部に着くとそこには和泉さんがいた。どうやら先に着いていたらしい。


「おはよう、和泉さん。和泉さんも連絡ももらってここに来たの?」


「うん。今朝、不知火さんから連絡があってここに来たところ。隠岐くんも似たような感じ?」


「そうだね、僕も不知火さんから連絡をもらってここにきたところ。肝心の本人は……」


「私がここに着いて連絡したら、今から迎えにいくってさっき返信があったけど」


「あっ、いたいた」


 快活な声が聞こえたため、僕と和泉さんはそちらを振り向く。不知火さんが僕たちを見つけてこちらにやって来ているところだった。


「お待たせ、和泉ちゃんに隠岐くん。さ、リーダーもパーティーの部屋で待ってるし、急いで行こっか」



「よし、全員集まったな。それじゃ探索のための打ち合わせを始める」


 場所は変わって僕達は今、天の双剣のパーティーの部屋に居た。全員がいることを確認した岩代さんが会議の始まりを宣言する。


「ねえ、リーダー、一つ聞きたいんだけど今回のダンジョンの危険度ってどれくらいなの?」


 不知火さんが岩代さんに尋ねる。ダンジョンに対してもモンスターと同じくS~Dのランクがあるのだ。それは出てくるモンスターの強さで決まっていく。


「今回探索予定の秋葉原のダンジョンはランクとしてはAランクのクラスに賊するダンジョンだ。まあ隠岐くんはAランクのモンスターと戦っているし、俺たちは何度もこのくらいのダンジョンを探索しているからそこの点は問題はない。ただ……」


「ただ? 通常と違うようなことがなにかあったんですか?」


「ああ、そのダンジョンに潜った探索者のパーティーがなんでもAランクのダンジョンでは生息していないようなモンスターと遭遇したらしい。戻ってきた一人以外はパーティーが全滅したと」


「全滅って……」


 全滅という言葉を聞いて和泉さんと出雲さんが体を強ばらせる。不知火さんはふーんといった感じで話を聞いていた、こんな時でも彼女は調子を変えない。


「だから皆目的を忘れないで欲しい。今回のダンジョンに潜る目的は探索だ、くれぐれも先走った行動はするな。依頼を請け負ったわけでもなく絶対に達成しなくてはいけない目標があるわけでもないからな。目的は新しくパーティーに加入した二人のスキルとメンバーの連携の確認だ。それを忘れないで欲しい」


「分かりました」


 僕は岩代さんの返事に素直に返事をする。和泉さんと出雲さんも僕の返事にあわせて頷いていた。


「不知火どうした?」


 一人黙ったままの不知火さんに岩代さんが尋ねる。


「ねえ、リーダー。今説明したように通常そのダンジョンで出現しないようなモンスターが出現するようなことって頻繁に起こることなの?」


「いや、ないな。たまにレアモンスターと言ってあるモンスターの亜種が出没することがあるがそれはあくまでそのモンスターの仲で強いといったレベルだ。まあそれでも注意せねばならんが」


「……ありえない……ね……」


 岩代さんの言葉を聞いた不知火さんは少し考え込んでいるようだ。


「不知火さん、なにか気になることでもあるのですか?」


 出雲さんが怪訝な表情で不知火さんに尋ねる。


「いや、ただなんでそんな通常有り得ないって言われてるようなことが起きたのかなって思って。そのダンジョンは立ち入り禁止とかにはならなかったんだね」


「ああ、そのモンスターに遭遇したのもそのパーティーだけで他にやられたっていう話は今は出ていないからな。他の探索者達はちゃんと戻ってきているし。注意喚起が出ているくらいさ」


「なるほど、分かったわ。用は無茶をするなってことね」


「理解してくれて助かるよ、不知火」


「あたしがそのモンスターと戦いたがってるとでも思ったの? 皆がいる時にそんな勝手なことはしないわよ」


 少し不満そうに岩代さんに言い返す不知火さん。探索の方針を確認した僕達は秋葉原に現れたあのダンジョンへと向かった。




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