第29話

「へえ、二人は高校に入って仲良くなったんだ」

 

 パーティーの部屋へと集まった僕達は注文したピザと飲み物が届くとそれを食べながらお互いのことについて話をしていた。


「はい」


「仲いいの? 今日みたいに一緒に行動することも多い?」


 不知火さんはピザをつまみながらいろいろと聞いてくる。どうやら僕らがどれくらいの関係か気になっているらしい。


「よく学校の帰りとかに一緒に遊びに行ったりはしてますよ。この前も新しくできたお店に行ったりはしました」


「え、もしかして二人共付き合ってるの?」


「「ぶっ!!」」


 不知火さんの直球な質問に僕と和泉さんは口に含んでいたものを吹き出しそうになった。


「ち、違います! 仲のいい友人というだけです!」


 和泉さんが強い口調できっぱりと否定する。た、確かに付き合ってはないけどそこまで強い言い方されるとなんか落ち込むなあ。


「ふうん」


 和泉さんの発言に不知火さんは生返事をする。じっと僕らを見つめていた。


「ん~、なるほどねえ。ふふ、これはなかなか大変だね」


 急ににやにや笑いだした不知火さん。どうしたんだろう?


「こりゃ、いろいろと大変だ。ねえ、梓」


「私はそういったことには疎いのでコメントは控えますよ。触らぬ神になんとやらです」


 不知火さんに話を振られた出雲さんはきっぱりとした回答を返す。なんというか出雲さんの不知火さんに対する対応は一切の遠慮がない。不知火さんもそれを許してるみたいなんだよな。


「わ、私達のことはいいので皆さんのことを教えてください。皆さんは一体どうやってお知り合いになったんですか?」


 和泉さんが慌てて話題を変えようとする。彼女の顔はほんのり赤くなっていた。


「ん~、まああたしと梓はこのパーティーに入る前からの腐れ縁よ。ちっちゃい時からお互い知ってる仲。そこを二人一緒にリーダーに声をかけられた感じかな」


「ええ、まったくこの人に長い間付き合わされるのは疲れますよ」


「えー、言い方酷くない? あたしのほうも結構梓のこと助けてるじゃん」


「……まあ、そうですね」


 お互いに軽口を叩きながら会話する二人。長い付き合いという言葉に嘘はないのだろう。


「お二人も仲がいいですよね。なんというか軽口を叩きあえる仲っていうのが伝わってきます」


「そう? あんまり意識したことはなかったな、そういうの」


「これが私達にとって普通の会話ですもんね。自分達でどうしようとかそういった意識はないですから」


「まあ長くいるとお互いが次にどんなことを言いそうかも分かってくるしね」


「でもあなたがする行動はいつも突拍子もないことです。隠岐さんを誘ったことも今日の模擬戦のことも。何年一緒にいてもあなたがする行動だけは読めませんよ」


「ひっどい言い方!」


「今日の模擬戦に関しては特にそうですよ。探索者になったばかりの人間と手合わせしたいだなんて。あなたが探索者になった人間と戦うなんてゲームで初心者にプロゲーマーが勝負挑むようなものじゃないですか」


「でも今日の戦いをみたら梓も納得したでしょう。彼はそんなに弱くないよ」


「まあそれは納得しましたけど。でも迷惑なのには変わりないです、隠岐さんが快く了承してくれたからよかったですが次からはこういうことはやめましょう。普通の人は心よく応じてなんてくれませんよ」


「梓、お前は私のオカンか」


 不知火さんの突っ込みを無視して出雲さんは僕のほうを見る。


「隠岐さん、今回は本当に楓に付き合ってもらってありがとうございました。このどうしようもない狂犬には強く言い含めておきますんで」


「あはは、いや気にしなくていいですよ。僕も望んだことですから」


「そうだよ、今回はちゃんと相手に許可とってるから問題ないじゃん」


「許可をとればなんでも許されると思っているのですか、あなたは……」


 出雲さんが呆れた目で不知火さんを見る。ああ、これは日常的に彼女に振り回されているんだろうな。


「だいたい隠岐さんについても私に調べるようにお願いしてきましたし」


「そ、それは仕方ないじゃん! だって梓のスキルがいろいろと調べるのには向いてるんだし」


「それはそうですけど。このスキル使うのはいいんですけど依頼内容によってはあまり気分がよくない時もあるんですから。今回みたいな個人の特定なんてことは私もあまり好きではないんですよ。人のことをのぞき見てるみたいになるから」


「ほんとごめんて」


「出雲さんのスキルってどんな力なんですか?」


 和泉さんが好奇心からか出雲さんに尋ねる。出雲さんは小動物のようにピザをもぐもぐ食べながら質問に答える。


「私のスキルはまあ端的に言ってしまえば電子機器の掌握です。一定範囲にある電子機器を思うままに操ってその中のデータや映像を見たりと……まあ機械相手ならいろいろなことが出来ます。スキル名はアドミニストレーターと言います」


「そ、それってとんでもないスキルなんじゃ……!」


 この電子機器が溢れた世界ではそのスキルはかなり便利な気がするけど。やろうと思えば犯罪とかも出来そうだ。だからさっきあまりいい気分はしないといったのかも。


「確かに便利ではあります。が、戦闘ではあまり力にはなりません。そこに関しては物理的にやりあえるスキルのほうが優位性がありますよ」


「でも探索とかで便利だよね。通常ダンジョンでは通信機器が使えないんだけど梓のスキルを使った電子機器だと通話できたり。直接戦う力がなくたって立派なスキルだと思ってるよ」


「褒めてもなにもでませんよー」


「純粋に褒めてるだけなのに疑われた!」


「そのスキルで僕のことも調べたんですか?」


「ええ。あなたのことはあの秋葉原で私も見ていましたから。まあそこから街の監視カメラを掌握してそこに写っていた映像を元にあなたがどこに行ったかを特定、そして学校のデータベースとかを調べてどんな人間かを調べた形です」


 無表情でそういうことを言われてちょっとぞっとする。今東京の駅や街には監視カメラが付いているし、いろんなものが電子化されてるから理屈は分かるけどちょっと怖い。出雲さんを敵に回すのは避けたいなと僕は思った。


「怖いでしょ~、梓を敵に回すと個人情報丸裸だよ~。しかもこの子のスキルは使った痕跡が一切残らないの、現代社会でこんな便利な能力ってないよね」


「人がスキルを犯罪ばかりに使ってるみたいな言い方はやめてください。私は必要がない時以外こんなことはしません。なんでも知ることが出来るってそんなに気持ちのいいことじゃないんですよ」


 揶揄うようにいう不知火さんに頬を膨らませながら出雲さんは抗議する。


「隠岐さんも気分を害したのならすいません。嫌ですよね、こんなふうに個人情報を特定されるの」


「いえ、今の話で出雲さんがそういったことを好んでする人じゃないのは分かりましたから。もう気にしないでください。それより美味しいピザがあるんだから食べながら楽しい話をしましょう。冷めたらおいしくないですって」


「そうですね、今日はそういう目的でこの場を設けられたのですから私もこの話はやめて楽しみます」


 出雲さんはそう言って目の前にあったシーフード味のピザを取り、食べ始める。僕も別に頼んであった味のピザをとって食べてみた、とても美味しい。


(ちょっと前まではこんなふうに誰かと一緒に食事をする光景なんて考えられなかったな)


 少し前までは和泉さん意外ろくに話す人もいなかったけど今はこんなに楽しく話せる人が増えた。それが自分自身も楽しく思える。


(探索者になることを選んで本当によかった。少なくとも今はあの時の選択がいいものだったって思えるよ)


 そんな幸福を噛みしめながら僕達は楽しく会話して食事の時間を終えた。食事を食べた後は夜も遅いからと岩代さんが僕と和泉さんを家まで送った。


 こうして僕の慌ただしい一日は幕を降ろした。

 




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