第28話

「……」


 和泉さんが探索者としてパーティーに入ることになった経緯を彼女から聞かされた僕は沈黙していた。


「というわけで私も探索者として岩代さんのパーティーに入ることにしたからよろしくね」


「よろしくねって……和泉さんはそれでいいの?」


 彼女は探索者になりたいわけでもなかったはずだ、そりゃ僕も探索者になろうと思ってなったわけじゃないから偉そうなことは言えないんだけど。


「探索者になったらこの前みたいなモンスターと戦わないといけないことも多いんだよ。危険な職業だし……」


「これは私の意思で私自身が決めたことだよ。それに危険だから駄目なんて言うのは隠岐くんが言うのは卑怯じゃないかな?」


「それは……」


 和泉さんから正論で突っ込まれた僕は言葉に詰まってしまう。彼女の言うことは確かにそうだ。危険だからという理由で止めるなら僕だって探索者なんてやめるべきだろう。


「ねえ、隠岐くん。これは彼女が自発的に言い出したことだよ、友人が危険に晒されるのは嫌って思うのは分かるけど彼女の意思を尊重したほうがいいんじゃないかな」


 不知火さんが僕の心を見透かしたような発言で僕を諭してくる。


「彼女一人で行動するわけじゃないんだからさ。探索者として行動する時はあたし達も一緒に行動するし。だから彼女の判断を受け止めてあげて」


「不知火さん……」


 僕はもう一度和泉さんのほうを見る。彼女は口を堅く結んで僕のほうをじっと見ている。


「隠岐くん、私だって遊びで探索者になるって決めたわけじゃないよ。ちゃんと岩代さんから説明も受けたし、彼が私をパーティーに誘った理由にも納得した上で私はこの決断をしたの。だから今回は私の判断を信じて欲しい」


「その……和泉さんがパーティーに入ることを決めた理由は岩代さんが理由を説明してくれたからってだけじゃないと思うんだけどな。僕はそこを聞かせて欲しいよ」


 正直それだけなら普通の人なら断るだろう。僕みたいに自分のスキルを役立てるところがあって嬉しいという理由がないと岩代さんの申し出を受けるとは思えなかった。


「……私はずっと自分のスキルが役に立たないものと思って過ごしてきた。正直自分でもどうしてこのスキルだったんだろうと思うことがいっぱいあったの、もっと強いスキルがよかったって。でもね、岩代さんは私のスキルが必要と言ってくれた。それが嬉しかったの、このパーティーに入ったら自分のスキルを活かせて……自分を誇れるようになれるんじゃないかって思って。だから岩代さんの申し出を受けたの」


「……」


 和泉さんが探索者になってこのパーティーに入る理由を聞いた僕は言葉を発することができなかった。それは僕が不知火さんから探索者にならないかと言われ、なることを決断した理由と似ていたから。


 こんな理由を聞かされたら止めることなんて出来るわけないじゃないか。


「……分かりました。この件に関しては僕はもう口出ししません」


「隠岐くん、ありがとう」


 和泉さんがほっとした表情で僕にお礼を言ってくる。僕に説明するのに緊張していたようだ。


「決まりだね。いやー、今日はめでたい日だなあ! 一気にパーティーの仲間が増えたよ。これからよろしくね」


「二人共よろしくお願いしますね」


 不知火さんと出雲さんが一緒に挨拶してくる。僕らもよろしくお願いしますと挨拶を返した。


「さて話もまとまったことだ。今日はもう遅い、二人共今日はここで夕飯を食べていくといい。親睦も兼ねてみんなでうちのパーティーにあてがわれた部屋で食事会といこう」


 岩代さんに指摘されて僕と和泉さんは時間を確認する。時刻はもう午後8時を回っていた。


「本当だ、もうこんな時間だったんですね」


「いつの間にこんなに時間が過ぎていたの……」


 ここに来てからいろいろなことがありすぎて時間があっという間に過ぎていた。興奮作用も働いていたからか今まで気にしていなかったけど今は気も抜けたせいか急にお腹が空いてきた。


「あ、あたしもお腹空いてきたわ。近くでなんか買ってこようか?」


「それなら出前でピザとか頼みましょうよ。おいしいですし」


「出た、ピザ。梓、あんた本当にピザ好きよね、作業とかで引きこもった時いっつも出前でそれ頼んでるし。そんな食事してると栄養偏って死ぬわよ」


「平気ですよ、こういう食事ばっかりしててもそれなりに生きてる人もいますし」


「寿命縮むって、そんな食事」


「その時はその時です」


「こういうところは変に割り切ってるよね、あんた」


「長生きは幸福とは限りませんからね、健康な時に楽しむのが一番です」


「はい二人ともそこまで。ただメニューの提案としては悪くないからピザの出前でもとるか。二人もそれでいいか?」


「はい、僕は大丈夫です」


「私もそれでいいです」


 僕は別にピザが嫌いではなかったからそれでオッケーを出した。和泉さんも不満がなさそうだったので今日の夕飯はピザを頼むということになりそうだ。


「よし決まりだな。じゃあ俺たちパーティーの部屋まで行こう。出雲、ピザの注文任せていいか?」


「ええ、いいですよ。皆さんどんなピザがいいか、私に教えてください」


 出雲さんは気怠そうにしている顔に嬉しそうな笑顔を浮かべて僕達にどんなピザがいいかを聞き始めた。そして聞き取りを終えた後、スマホでサイトを調べネットで注文していた。

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