第24話

「和泉さん」


 部屋を不知火さんと一緒に出た僕は外で待っていた和泉さんを見つけて駆け寄った。和泉さんもこちらを見つけて駆け寄ってくる。


「隠岐くん! 良かった、もう怪我は痛まないの?」


「うん。おかげさまでもう回復した」


「……本当に?」


「本当、だから心配しないで」


 僕の言葉を信じてくれたのかは分からないけど和泉さんはそれ以上追求はしてこなかった。


「ならいいけど。本当に心配したんだから」


「ごめんね、和泉さんに余計な心労をかけちゃった」


 彼女は今日僕について来ただけなのに不知火さんとの戦いのせいで余計な気遣いをさせてしまった。


「ああ、和泉ちゃん。そういえばあのことは隠岐くんに言わなくていいの?」


 不知火さんが今思い出したと言わんばかりの口振りで和泉さんに尋ねる。一体なんの話だろう?


「あー……その……」


 不知火さんに指摘された和泉さんはなぜか言い淀んでいる。そんなに僕に対して言いにくいことなんだろうか。


「和泉さん、一体どうしたの?」


「えっとね……隠岐くんが気を失っている間に岩代さんや不知火さんも交えて話をしたんだけど……私も探索者になることにしたの」


 はい?


「えええええええええええええええええええええ!?」


 僕の驚いた声が辺りに響き渡った。


 

「あっ!」


 不知火さんと隠岐くんの戦いを見ていた私は小さく声をあげる。不知火さんが隠岐くんを蹴って彼が動かなくなったからだ。


「決着がついたみたいだな」


 その様子を見ていた岩代さんが立ち上がり部屋から出て行く。私も隠岐くんが心配だったので彼と一緒についていった。

 模擬戦闘が行われていた訓練場へ私達が着くとすでに隠岐くんが白衣の人達に運ばれていっているところだった。

 

「出雲、彼は大丈夫だったのか?」


 岩代さんは試合を見守っていた出雲さんに問いかける。


「医療スタッフが見たところ大丈夫みたいです。不知火さん、こういうところは戦いを楽しんでいてもなぜかしっかり弁えてるんですよね」


 出雲さんは心底不思議だと言わんばかりに口にする。私もその評価には同意する。


「失礼ね、梓。あんたはその失礼な口の利き方を治したほうがいいと思う。あ、リーダー」


 出雲さんの発現に突っ込みをいれつつこちらに気付いた不知火さんが私達のほうへ駆け寄って来た。


「まったく困ったやつだ。こんな無茶なお願いは二度として欲しくないぞ。今後はやめてくれ」


「あはは、ごめんて。でもおかげで彼の強さをリーダーも認識出来たでしょ?」


「……そうだな。模擬戦とはいえ、まさかお前とあれほどやり合えるとは思っていなかったよ」


「でしょ。これで彼が私達のパーティーに入ることにリーダーも文句ないよね」


「ああ、お前と戦えるところを見せられちゃな。というか不知火のスキルによる防御を突破出来るやつなんてそうそういないし、そんな有望株の人間を逃すわけがない」


 岩代さんが不知火さんの言葉に頷く。


「ああ、君」


「えっ? 私ですか?」


 不知火さんは私に呼びかけるとこちらやってきた。そうして私に向かって頭を下げてくる。


「えーっと、和泉さんだっけ? ごめんね、君にとって友人の彼が傷ついているところはあまり気持ちのいいものではなかったでしょ? 本当に君には嫌な思いをさせちゃった」


「あ……」


 素直に彼女から謝罪の言葉を聞かされた私は思わず面喰らってしまう。こんなに素直に謝る人には見えなかったからだ。彼女に対する認識が私の中で少しだけいいものになる。


「いえ……彼も了承したことですから」


「無理に虚勢張らなくていいんだよ。まああなたが納得しているなら私はこれ以上言わないね。あんまり言うとくどくなるし。それよりリーダー、この和泉さんに話があるんじゃなかったの?」


「ああ、そうだな。しばらく彼は気を失ったままだしこのまま話をしようか。君、彼と一緒に俺たちのパーティーに入ってくれないか?」


「えっ?」


 突然の申し出に私は固まってしまう。正直今日はAくんに声をかけた人について確認したくてついて来ただけだからこんな申し出を受けるとは思っていなかった。


「私が探索者になって皆さんのパーティーに入るですか? なぜまたそんな話に?」


「君は探索者が危険な仕事という話は聞いているか?」


「はい、彼がライセンスを登録する際に受付の人がそう言っているのは聞きました」


 隠岐くんが探索者としてライセンス登録をしている時の話は私も聞いていた。曰く、探索者は危険の多い仕事のだからスキルを持っている人でも必ずなりたいと思うわけじゃないと。確かに私も今まで気にしたこともなかったしな。


「聞いているのなら話がしやすいな、なら単刀直入に言おう。俺が君に俺のパーティーに入って欲しい理由は君の能力が俺達の助けになると思ったからだ。彼から聞いたけど君は他の人間の傷を癒やすことができるんだったね」


「はい」


 私は岩代さんと模擬戦を観戦するために別室に行った時に私のスキルについて尋ねられたので説明した。最初の不知火さんの要望はどうやら彼からのものだったと岩代さんからその時の会話で伝えられた。


「スキルの中で他人の傷を直せるようなものは少ないんだ。俺は彼だけでなく君にもパーティーに入って欲しいと思ってる」


「でも私は……戦った経験なんてありませんけど」


「そこは心配しなくていい。なにかあったらこいつがどうにかするさ」


 そう言って岩代さんは不知火さんを指で指す。


「まあそうだね。実際このパーティーメンバーのスキルも全部戦闘出来るものではないからね。梓のスキルもどちらかというと君と同じ補助タイプの力だから」


「そうですね、実際私のスキルはこのメンバー以外では軽く見られることもありました。やっぱり実際に戦う力のあるスキルを持った方のほうがどうしても重宝されるので」


 出雲さんの言葉に私は胸を詰まらせる。そう言った経験は私にもあった、同じ高校の丹波くんのような人間を思い出す。


「でもこのパーティーはそういったことがないので私も所属しているのです」


「梓のスキル、あたしは結構便利でいいなと思ってるんだけどな」


「あなたにそんなふうに言われてもあまり嬉しくないんですけど」


「まあそんなわけだ。君がもし自分のスキルをちゃんと役立てたいと思っているならこのパーティーはおすすめだぞ、皆きちんと役割があるからな」


 私のスキルは性質上、周りから軽く見られてきた。けれどこのパーティーなら私のスキルもちゃんと役立てられるだろうか。


「それに彼といる時間も増えるかもよ」


「っ!?」


 耳元で囁いてきた不知火さんに私はびっくりして飛び退いてしまう。それに囁いてきた内容が……


「こほん……分かりました。私も探索者としてこのパーティーに入ります」


「ありがとう、それじゃ今日君の手続きもこの後してしまおうか」


「はい」


 ずっと自分の力を肯定的に捉えられることがなく、自分のスキルについて自信がなかった。ここならそんな自分を認めてもらえるかもしれないなどという子供じみた理由で私は探索者になることを決めてしまった。


「ふふ」


 横にいる不知火さんを見ると私のほうを見てからかうような笑みを浮かべていた。


「やっぱり気になる人とは一緒にいたいよね」


「……違います!!」


 その言葉に私は赤面して強く彼女の言葉を否定してしまう。……私が探索者になるのは断じて彼と一緒にいる時間が増えるからではない!!


 ちょっと印象がよくなったけどやっぱりこの人はちょっと苦手だなと思った。


「さてじゃあそろそろ彼のところに向かおうか。どんな状態かは見ておこう」


 岩代さんの言葉に従って私達は隠岐くんが運ばれた部屋まで移動した。



  

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