第23話
「う……ん……」
ここはどこだろう? 確か僕は不知火さんと戦っていてそれで……。そうだ、彼女がスキルを使って操った風に吹き飛ばされて動けなくなって蹴りで気絶させられたんだった。
「あ、起きた」
視界の隅から誰かが顔を出す。活発そうな顔立ちに茶髪のポニーテールの美少女だ。
「不知火さん」
「うん、顔色はいいね。どこか痛むところはある?」
「いえ、特には」
幸い身体強化の力があったおかげか動けないということはなかった。今はもうどこも痛くもない。
「すいません。運んでくれたのは不知火さんですか?」
「いやここの医療スタッフ。彼らは模擬戦で誰かが怪我をするのは慣れっこだからこういう時の対処は早いよ」
「手慣れてるって……」
僕は不知火さんの言葉に苦笑してしまった、ここの医療スタッフは大変だなあ。
「……僕は負けたんですね」
今の自分の様子を見て自分がどうなったかを悟る。僕は不知火さんに負けたのだ。
「うん、そうだね。勝負自体はあたしの勝ち、でも」
不知火さんは僕の目をじっと見つめる。
「君は決して弱くないよ、あたしのスキルを利用した防御を破られたのなんて本当に久しぶりだしさ。あたし相手にこれだけ持つのも大したものだよ」
不知火さんの称賛の言葉は嬉しい。それでも、
「褒めていただいてありがとうございます。でもやっぱり負けたのは悔しいです」
不知火さんに負けるのはなんとなく予想はしていたことだ。それでもいざ負けたとなるとかなり悔しい、自分の心にこういった感情があるのが驚きだったけど。
「あはは、悔しいと来たか。普通の人はあたしと戦ったら実力差からかもう二度と戦いたくないっていうのよ。ほんと面白いな、君は」
不知火さんはどこか楽しげだ、心の底から満足そうな表情を浮かべている。
「そういうふうに思うなら君は強くなれるよ。そうしてあたしを倒せるくらいになって欲しいな」
「いきなり難題を……!」
負けたのが悔しいと言っても不知火さんに勝てるようになるにはまだ時間がかかると思う。
「まああたしも簡単に負けるつもりはないからね。ていうか君のスキルって本当にどんな能力があるの? ただの剣であたしのスキルを途中で打ち消したりとか出来ないでしょ。一体なにが本当の力なわけ?」
不知火さんが目を輝かせて僕に尋ねてくる。まあ、スキルの登録の際の説明では僕のスキルについては分かりにくいだろう。
「えーっとですね、僕のスキル自体は探索者のライセンスを作る時にも話したように剣を作ることなんですよ。ただ、その剣が僕にいろいろな力を与えてくれているんです」
「へえ、スキル自体は本当に剣を作るだけで生み出した剣が君に力を与えてるんだ。変わったスキルだね、あたしもそんなスキル聞いたことないや」
「はい、僕もそう思います。実際僕もまだこの『魔剣創造』のスキルを全て使いこなせているとは言えないんです」
やっと基本的な性能を把握したような状態なのだ。実際この魔剣がもたらす効果でどこまで強くなれるかは未知数なとこだ。
「うーむ、謎の多い力だなあ。逆に君にとっては謎だらけだからこそいいのかも。それだけスキルの拡張性があるってことだしね」
「そうですね。そこに関してはこれからちゃんと使えるようにしていきたいです」
「ちなみに剣が与えてくれる力ってなにか制限はあるの? なんらかの条件を満たさないと発動しないとか」
「はい。制限というよりもモンスターを倒すとポイントが得られてそれを消費することで追加で効果が得られるようです。獲得した追加効果は永続するみたいですね」
「うげえ、なにそのチート能力。理論上モンスターをを倒しまくればいろんな効果を得られて強くなれるってこと? そんな出鱈目な力存在していいの」
その出鱈目な力にあなたは勝ったんですけどね……!
「そんな力を扱う人間に不知火さんは勝ってるじゃないですか。不知火さんの能力こそ一体なんなんです? 丹波くんと戦った時も炎を逸らしたり、今回は僕を引き寄せたり最後は風を操ってたりしてましたけど」
「ああ、あたしの能力は単なるテレキネシスだよ」
「えっ!? テレキネシスであれだけのことをしてたんですか!?」
「そう、驚いた? でも本当のことだよ。これ聞くと皆最初は絶対に驚くんだよね」
「それはそうでしょう。テレキネシスをあれだけの精度で扱える人なんてそんなにいませんよ」
僕もテレキネシスのスキルを使える人は知ってるけど不知火さんがやっていたようなことは出来なかった。やっぱり不知火さんが特殊なのか。
「そんなに驚くことはないでしょ。皆、修行が足りないのよ、鍛えればある程度まではいくはずよ」
胸を張って答える不知火さん。他の人間は涙目である。
「まあ実際あたしも自分が強いって自負はあるんだけどね。だからこそ今日の戦いで私のスキルを破られた時は驚いたんだよ。あんな経験は始めてだったからね。あれも追加の効果なの?」
「はい。不知火さんの能力を突破出来る方法を考えてその場で有効そうな追加獲得出来る効果を選びました。効果の内容については不知火さんが予想をしていた通りですよ」
「やっぱりか。あなたを掴んだ時に急に手応えがなくなったからそうじゃないかと思ったんだよね。結果的には当たってたわけだ」
「はい」
この人の野生の勘は当たっている。しかもその場で対策も考えて反撃を繰り出してきたわけだからこの人の勘は侮れない。模擬戦だからよかったけど敵として出てきたら勘弁して欲しいな……。
「あれ、和泉さんはどこですか?」
気になった僕は不知火さんに尋ねる。試合は特等席で見ていたはずだけど。
「ああ、彼女ならこの部屋の外で待ってるよ。君のことを凄く心配していたから早く顔を見せに行こっか」
「はい」
僕は和泉さんにお礼を不知火さんに従って部屋を後にした。
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