第22話
「!?」
不知火さんの表情が驚愕に染まる。確実に当たると思っていた攻撃が当たらなかったのだから無理もない。
(よし! うまくいった!)
自分の判断が間違っていなかったことに僕はほっとする。あの追加効果はきちんと効力を発揮していた。
「なんなの? 今の現象は……」
一方の不知火さんはまだ戸惑っていた。
「さっきみたいに引き寄せられてから私の攻撃を防ぐんじゃない。まるであたしのスキルを打ち消した上で、行動の自由を確保してからかわした……?」
彼女の的確な分析に僕は息を呑む、動揺はしているけどちゃんとこっちの解析を怠ってこない。
これで自分の力を過信してくれるならまだやりようはあったかもしれないけど……隙がないな。
「うーん、やっぱりこれだけじゃ君がなにをしたかが分からないや。でもやっぱり隠し玉を持ってたね、君」
自分のスキルを破られたというのに彼女にはまだ余裕があった。不知火さんは今の僕のスキルキャンセラーの効果を見て楽しそうに笑っている。
「楽しいな、やっぱり君を見込んだのは間違いじゃなかったよ。じゃあ今の君がやったことの解析を始めよっか」
不知火さんは再び僕へ向かって手をかざす。体が引っ張られていく感覚があったけど、僕はスキルキャンセラーでそれを打ち消す。
僕の体は不知火さんのほうへ引っ張られることはなかった。テレキネシスによる引き寄せを回避した僕は彼女との距離を詰める。
そのまま彼女に向かって蹴りを繰り出した。
「そんなのあたしには……いや、まずい!」
不知火さんは体を捻って僕の攻撃をかわした。くそ、不知火さんがスキルで防いでくれたらよかったのに!
「直感だけどさ、今の蹴りってあたしのスキルで受けようとしてたら多分防げなかったよね、本当それどんな仕掛けなの?」
不知火さんは僕の追加で獲得したスキルキャンセラーの効果を見抜いている。勘でここまでやるなんて……!
「あたしこの防御には自信あったんだけどな。それを破る力ってなに? ……本当心が躍るなあ、君と戦うのは」
獰猛な獣のような笑みを浮かべる不知火さん。彼女の戦意は衰えていない。
「本当に戦いを楽しむ人なんですね……」
僕は模擬試合の前に出雲さんが言っていたことを思い出した。不知火さんは戦闘狂だと。
「まったく失礼だよね、梓のやつ。 あたしはただ人生で起きることを楽しんでるだけなのにさ」
「あはは……」
出雲さんへの不満を述べる不知火さんに僕は苦笑いしてしまう。ただ不知火さんらしい回答だとは思った。
「さて、今度はこっちから行こうかな!」
不知火さんが僕のほうへ向かって駆けてくる。彼女のスキルを押さえられている今なら格闘である程度やりあえるはず。
不知火さんは僕へ近づくと最初に顔を狙って蹴りを繰り出してくる。僕はそれをかわしてお返しと言わんばかりに蹴りをお見舞いする。
「……っ!!」
不知火さんは顔を狙った僕の蹴りを腕で防いだが痛みで顔をしかめる。
(よし、いける!)
この戦いが始まって始めて不知火さんが痛みを露わにした表情を見せた。
「まさか楓に一撃を与えるなんて……どんな手品を使ったんです……」
審判をしている出雲さんも驚いている、それだけ彼女に一撃を与えることが凄いことだったのか。少し嬉しい。
でも油断はできない、まだ不知火さんが僕の力に対処出来ていない内に決着をつけないと。長引けば対応策を考えられてしまうかもしれない。
僕はここで一気に決着を付けようと蹴りや殴打、斬撃を混ぜた連撃を不知火さんに叩き込んでいく。が、これで倒れる彼女ではない。僕の攻撃をきちんと防ぎ、対処してくる。
「ん~~……」
なにかを考え込むような声を発した彼女は僕から距離を取った。僕は彼女を逃がさないように追撃する。
「君の持ってる力を完全に理解出来たわけじゃないけど……これは防げないんじゃない」
彼女の言葉と共に強い風が辺りに吹き荒れた。まるでここだけ台風が通過しているような状態に訓練場は陥っていた。
「くっ……!?」
僕はその風に吹き飛ばされまいと必死に踏ん張る。いくらなんでもこれはスキルキャンセラーで対応できない。
「やっぱりこれには君のスキルは対応できないんだ。読みが当たってよかったよ。あたしの力に直接作用しているみたいだったから、こういう形なら効果があるかと思ったけど思った通りだった」
「ぐっ……!!」
もう対応策を立ててきたのか……なんて適応能力の高い……!
「さて、いい感じに楽しくなってきたからここからが第二ラウンドみたいなものかな。いっくぞー!」
不知火さんのかけ声と共に風が彼女の周りで吹き荒れる。
「行け!」
彼女の周りに集まった風は僕を中心に吹き荒ぶ。
「ぐうううううううう……!? ああっ!!」
堪えようとした僕だが耐えきれず吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。不知火さんが操った風が通った後は地面が抉れていた。
「うっ……」
まずい、このままだと……。
急いで立ち上がろうとするがうまく立ち上がれない、体中が痛みで悲鳴をあげている。どうやらさっきの風で叩きつけられた時、相当なダメージを負ったらしい。
不知火さんはゆっくりと僕へと近づいて来ていた。彼女の周りにはまだ風が渦巻いている。
(まずい、早く立たないと……!)
必死に立ち上がろうとする僕だがやはり立ち上がれない。
「くそ……」
僕が立ち上がれないままでいる間に不知火さんは側まで来ていた。
「楽しかったよ、君との戦い。正直負傷したのも久しぶりだったからさ、とても心が躍ったよ。また戦いけど今回は私の勝ちだね」
彼女の言葉と共に鳩尾に蹴りが叩き込まれ、僕は意識を失った。
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