第21話

「ほらほら! もっとあたしを楽しませてよ!」


「ぐっ」


 僕は不知火さんに追い詰められていた。彼女のスキルが分からないとこの状態から抜け出せず一方的ににやられる試合になるだけだ、なんとかして彼女のスキルの正体を突き止めないといけない


 だけどこの激しい攻撃を防ぐのも一苦労だ!


「ふふ、逃げ回ってばかりじゃ勝てないぞ!」


 不知火さんは僕に向けて手をかざしてくる。まずい! 引き寄せられる!

 予想通り僕の体は彼女に向かって引っ張られていく。こちらに一撃を入れようと構える不知火さん。

 僕は打撃が飛んでくる場所を予想して防御する。彼女の拳が僕に向かって叩き込まれたけどなんとか防いだ。


「お? 防いだ」


 不知火さんが攻撃を防いだ僕に感心する。


「やっぱり君は凄いや。今のやつって結構防げる人って少ないんだよ」


 楽しそうだな、不知火さん。僕は全然楽しくないけど!


「でもそろそろきついでしょ? ずっと防戦一方だし。そろそろ打開策考えないと厳しいよ」


 余裕のある表情で僕を挑発してくる不知火さん。悔しいけあ不知火さんの言う通りだ。今のところ決定的なダメージは負っていないけれどこのままだと負ける。それに彼女はまだ全然本気じゃない。


「さあ、もっと見せてよ、君の力を。そしてあたしをワクワクさせて!」 


 不知火さんは言葉と共に僕に向かって駆けてくる。勢いの乗った不知火さんの拳を頭を振ってかわす。

 しかし彼女は止まらない、続け様に蹴りや掌底を織り交ぜて攻撃の勢いを落とさず攻め立ててくる。

 だんだん押されて来た僕は大振りの斬撃を繰り出して不知火さんに隙を作り、距離を取る。


「はあ……はあ……!」


 予想はしてたことだけど……やっぱり強い! 僕はまったく手も足も出ずに彼女に一撃加えることすら出来ていない。みっともないな、これは。


「なんとか……活路を見いださないと……」


 そろそろ本当に彼女のスキルについて把握しないと本格的にまずい。追い詰められて敗北が確定してしまう。


「不知火 楓のスキルの解析が終了しました。時間がかかってしまい申し訳ありません」


(えっ? アナウンスがこんな時に……!?)


 いきなり響いたアナウンスの声に僕は戸惑う、しかも不知火さんのスキルの解析が終わったと言うではないか。


「ねえ、アナウンスさん。本当に彼女のスキルの解析が終わったの?」


 僕は半信半疑でアナウンスさんに尋ねた。なんとなくさん付けで呼んでみたけど意外としっくりくるな……。


「はい、彼女のスキルについて戦闘開始時点から解析を続けていました。結論を出すのに時間がかかってしまい申し訳ありません」


「ううん、大丈夫。今からそれを僕に教えて欲しい。それを元に不知火さんに勝てないか考えてみるから」


 今は少しでも戦局が好転しそうなことに感謝しよう。とにかくどんな情報でもいいから欲しい。


「はい、分かりました。ですがゆっくりお伝えできる状況ではないようです」


 アナウンスさんが指摘した通り、今の僕にそんな贅沢は許されていない。


「なーにをぼそぼそと喋ってるのかなあ? 私にも聞こえるように喋ってよ!」


 犬歯を剥き出しにして笑いながら不知火さんは僕へと向かってくる。彼女から繰り出される攻撃の嵐を僕はかわしながら、アナウンスさんと脳内で会話の続きをする。


(戦いながらでいい! 不知火さんのスキルについて教えて!)


「はい、彼女のスキルは単純なテレキネシスです」


(えっ!?)


 アナウンスさんの示した解析結果に僕は驚く。テレキネシスは目覚めるスキルの中でもメジャーなものだ。しかしさっき不知火さんがやったように人間を引き寄せたり、相手の動きをタイミング良く止めることが出来る人間なんていうのは僕は聞いたことがない。


「あなたが考えているように普通の人間にはこれほどのことは出来ません。彼女のスキルの扱う才能が素晴らしいのです。あれほどのテレキネシスを扱える人間はなかなかいませんね」


(アナウンスさんが賞賛してる……って感心してる場合じゃない!? 確かに不知火さんは凄いと思うけど彼女に対して対策を考えないと!)

 

「彼女への対応策に関してはあなたがこの前貯めたポイントを使うのがいいと思います」


(ポイント? あっ!?)


 アナウンスさんに指摘されて僕は思い出す。そういえばあのサイクロプスを倒した時に獲得したポイントが500くらいあったんだった。

 あの時は獲得できる追加効果の確認をしただけでポイント自体はまだ使用していない。


(なるほどその手があったか!!)


 こんな大事なことを見落としているなんて馬鹿なんだ。僕は心の中で自分自身を罵った。


(思い出せ! あの時確認したスキルの中でこの状況を打破できそうなものを!)


 僕は必死に頭を巡らせてあの時確認した追加の効果の中でこの状況を打破できそうなものを探す。


「あっ……」


 あった、一つだけこの状況に対処できそうな追加効果が。


(ねえ、アナウンスさん。この追加効果なら不知火さんのテレキネシスにも対応できると思うんだけどどう思う?)


 僕はアナウンスさんに自分の思いついた追加効果で不知火さんに対抗できそうか確認する。


「はい、この追加効果なら十分彼女に対抗できると思われます」


 アナウンスさんからの即答、僕の腹は決まった。


(よし! それじゃポイントを500使用して新しい追加効果を獲得するーー!!)


「ポイントの使用を確認、追加効果を獲得しました」


 アナウンスさんの声が頭の中に鳴り響く。よしこれで反撃する準備は整った。


「ねえ。さっきから私の攻撃をかわしてばっかだけどさ、少しは反撃してきてよね!」


 強烈な回し蹴りが不知火さんから放たれる。僕はそれを魔剣で防いで後退した。


「ちょこまかと逃げ回っちゃって……!! なに? 逃げてる間にあたしを倒す算段でも付けてたのかしら?」


 不知火さんが苛立ちながら僕に問いかける。


「はい、あなたを倒すための方法を考えていました。そして今からその方法を実行するところです」


「へえ……!」


 僕が不敵に笑って言い放った質問の回答を聞いて不知火さんは闘争本能剥き出しの笑顔で微笑んだ。


「あはは! 君ほんと面白いね。さっきまで逃げ回ってた人間が勝つ算段をつけたと? 大きく出たね。だったらそれを有限実行してみせてね。その思いついた方法とやらが私をどう倒すのか楽しみだ」


 彼女は僕に向かって右手をかざす。来るのはあの引き寄せーー!


「これを防げないんじゃ私には勝てないよ!」


 絶対の自信と共に不知火さんは僕を彼女の側へと引き寄せる。僕の体は彼女のほうへ向かい、その顔にいい拳がたたき込まれーー。


(そうはならない。追加効果発動、スキルキャンセラー!)


 僕は今獲得した効果を発動する、僕を殴り飛ばすと思われた不知火さんの拳は虚しく宙を切っていた。


 








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