第20話
僕が不知火さんと戦うことを了承したため、僕と和泉さんは岩代さんの案内で本部ビル内にある訓練場までやってきていた。
この訓練場はビルの地下にあり、とても広かった。不知火さん曰く壁などもダンジョンでとれた鉱石で作ってあるからちょっとやそっとじゃ壊れないようになっているらしい。
「だから戦う時は思いっきりかかってきてね!!」
その時にきらきらした目で不知火さんは僕に言ってきた。その光景を見て出雲さんと岩代さんが頭を抱えて見ていたのは言うまでもない。
「えー、審判は私、出雲梓が務めさせてもらいます。それではお二人共、まずは位置についてください」
出雲さんの指示で僕らは訓練場の中央に向かい、向かい合って立つ。和泉さんと岩代さんは別室でこの模擬戦を観戦している。
「ふふふ」
不知火さんが笑い声を漏らす。とても楽しそうだ。
「こうやって戦える時を楽しみにしていたんだよ。君があのサイクロプスと戦っているのを見た時からずっとこうやって戦ってみたかったんだ」
不知火さんは戦意に満ちあふれている。僕は気圧されてしまうけど決して引きはしない。
「よろしくお願いします、不知火さん」
「よろしく!」
「それでは始めてください!」
出雲さんの合図で模擬試合が開始される。
「ほら、まずは君の力を見せてよ。私はここに突っ立ったままでいるからさ、君から先手でいいよ。あ、あの剣も遠慮なく使っていいからね」
不知火さんはそう言って自分のパーカーのポケットに手を突っ込んだままその場に立っている。本当にこちらに先手を譲ってくれるみたいだ。
「それじゃ……遠慮なく行きますよ!!」
チャンスがあるなら遠慮はしない。僕は魔剣を顕現させ、地を蹴って彼女に迫る。その勢いのまま大きく振りかぶって剣を振り下ろした。
「わお、早いね。その速度どんなからくりかは気になるけどーー」
不知火さんは僕に肉薄されたのにも関わらず、悠々と構えている。このままだと僕の振り下ろした剣は彼女を斬り裂いてーー。
「えっ?」
僕の振り下ろした剣は不知火さんに当たる直前で止まる。まるで見えない手で止められたかのように静止していた、もちろん不知火さんには傷一つない。
「あたしには当たらないよ! 残念でした、えい!」
彼女がかけ声とともに軽く腕を振ると僕の体がその場から吹き飛ばされる。何度もリバウンドしながら僕は地面を転がった。
「っ……!?」
今のは一体……そういえば丹波くんと不知火さんが戦った時も彼がこんなふうに吹き飛ばされていたな。
「惜しかったね、でもその手の攻撃はあたしには効かないよ」
不知火さんはゆっくり歩きながらこちらに近づいてくる。彼女の能力の正体を見極めないと。
僕は再び地を蹴って彼女に近付き再び魔剣を振るう。しかしいずれも彼女に当たる直前で止められてしまった。
「だから効かないって言ってるじゃん」
彼女の言葉と共に再び腕が振るわれ、僕は吹き飛ばされる。くそ……なんで直前で僕の攻撃が止められるんだ……。
体勢を立て直した僕は再び魔剣を構えて不知火さんに向き合う。
「ふふ、さあ早く私のスキルの正体をはっきりさせないと君、どんどんジリ貧になってくよ」
不知火さんは楽しそうに笑いながら、右手を僕のほうへ向けた。
「っ!?」
彼女が右手を僕に向けた瞬間、僕の体は不知火さんへ引き寄せられる。
(なんで僕の体が勝手に……!)
「一発もーらい!」
不知火さんは近くまで引き寄せた僕の顔に思い切り拳をたたき込んだ。僕は再び地面を無様に転がる。
「げほ、げほ……!」
(一体なんなんだ……!? このスキル……!)
「さてまだまだ始まったばかりなんだからもっともっと私を楽しませてよ! これくらいで倒れないでよね」
向かってくる不知火さんが今の僕にはとても恐ろしいものに見えた。
*
「一体彼女のスキルはなんなんですか?」
隠岐くんと不知火さんの模擬戦を観戦するために案内された別室で試合を見ていた私ーー和泉神楽は隠岐くんと戦っている不知火さんのスキルが分からず、困惑していた。
あんなふうに斬られる直前で攻撃を止めたり、人を離れたところから引き寄せたりってスキルと言えども簡単にできるものなの……?
「はは、びっくりしたか?」
彼女のスキルについて考え、混乱していた私に岩代さんが声をかけてくる。あの不知火という人が所属しているパーティーのリーダーなのだそうだ。
「あの、不知火さんのスキルは一体どんなスキルなのですか?」
「まあ始めてみたんじゃなかなか見破れないだろうけどな、あいつの能力は単なるテレキネシスなんだよ」
「えっ……単純なテレキネシスであれほどの力を……?」
テレキネシスといえば物を触れずに動かしたりするスキルだ。私もそのスキルに目覚めた人は知っているけどこれほどの力を持つ人なんて見たことがない……。
「驚いたか? まああんなふうに人まで自在に動かせるくらいテレキネシスを使いこなしている人間はあいつ以外にはいないよ。だからあいつは探索者の中でも最強レベルの強さを持ってる。俺より強いぞ、あいつは」
探索者の中でも最強……!? そんな人を相手にして隠岐くん、本当に大丈夫なのかな……。一応殺したりするのは駄目って決めてたけど。
どきどきしながら私は隠岐くんの戦いを引き続き見守った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます