第19話

「し、不知火さんと僕がですか!?」


 い、一体どうしてそんなことに……!? 


「あー、これは不知火が申し出たことなんだ」


 言いにくそうに話す岩代さん。彼にとっても頭の痛い申し出だったのか。


「あー、ごめん、リーダー。その件についてはあたしから話すよ」


 僕と岩代さんの会話に気付いたのか不知火さんがこちらに話しかけてきた。


「えーっと、ごめんね、隠岐くん。この件に関してはリーダーは悪くないんだ、完全にあたしの我儘だからリーダーを怒らないであげて」


「は、はい。岩代さんのことを責める気はありませんけど……どうして僕と戦いたいだなんで希望されたんですか?」


「理由は単純。サイクロプスと戦っている君がとても強そうだったから。仲間に加えたいって気持ちもあったけど同時に君と戦ってもみたかったんだよね。だから我儘を言って今回のお願いをしているの」


 そう言った不知火さんの目はぎらついていた。まるで僕と戦えること自体に喜びを感じているようだった。正直少し怖い。

 

「……勝手な人」


 おまけに隣にいる和泉さんからの圧がだんだん凄いことになってきてるんだけど……。ぼそりと呟くの正直怖いよ……。


「あー、隠岐さん。あまり重く捉えないでください」


 緊張した空気の中に出雲さんが割って入る。


「楓は戦闘狂なところがあるので断りたいなら断ってもいいのですよ。もしあなたが断った場合はそれで納得するようにリーダーも言い聞かせていますから」


「あ、うん、今梓が言ったように本当に君が嫌だったら断っていいんだよ。でもさ、梓。今聞き捨てならないことを言ったわね」


「事実でしょう、楓が戦闘狂なのは」


「失礼な!」


 また言い争いを始めた二人を余所に僕は考える。僕が戦ったことのある相手はあのサイクロプスだけだ。戦闘経験の浅い僕が不知火さんに勝てるとは思えないけど……。


「その申し出受けます」


 僕の答えにその場にいた全員が驚く。


「おい、本当にいいのか?」


「はい、僕もスキルが目覚めたばかりで使い方が分かっていないんです。だから不知火さんとの模擬戦が出来るならその中で使い方を試しておくのも悪くないんじゃないかと思って」


 実際僕には戦いの経験が少ない、不知火さんのように強い人と戦えるなら今後のためにもなる気がしたし。


「……分かった、君がそこまで考えた上でそういうなら俺は止めん。不知火、やるのはいいがちゃんと限度は考えてやれよ」


「分かってるよ。ふふ、やっとこの機会が巡ってきた。あの戦いを見た時からこの時を待っていたんだよ」


 そういう不知火さんは心底楽しそうだった。目を子供のように輝かせ僕を見ている。


「よろしくね、隠岐くん」


「はい、よろしくお願いします」


 不知火さんに挨拶をした後、誰かが僕の服の裾を引っ張った。和泉さんだ、彼女は心配そうな目で僕を見ている。


「和泉さん?」


「ねえ、本当にやるの? あんな人の要望に付き合う必要ないと思うけど」


 じっと僕を見つめてくる和泉さんの肩を軽く叩いて宣言する。


「大丈夫、不知火さんはちゃんと加減はする人だから。それに……僕も最初から負けるつもりで戦う気はないからね」


 結果としては勝つのは厳しいだろうと体感でなんとなく感じていた。それなのに不思議と最初から負けるつもりで戦うことを今の僕は考えていなかった。


(負けるつもりでやる気はない。やれるだけのことはやるぞ!)


 僕も戦意を高揚させて不知火さんとの模擬戦に臨むのだった。


 

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