第18話
僕の探索者としてのライセンスの発行を済ませた後、不知火さんは自分のパーティメンバーに会わせると言って僕と和泉さんを連れて再び別の場所へと向かった。
このギルドの本部の設備を不知火さんに連れ回されている間に見ていたけど本当に充実している。
この施設の福利厚生の話も不知火さんに聞いてみたけどなんと食堂は探索者のライセンスを持っていればただでご飯が食べられるらしい。なんでもギルドへの出資者からのお金が十分にあるらしくそういったサービスは探索者であればただで使えるそうなのだ。しかも素材とかは高級食材を使っているらしく料理人も一流の人を連れて来ているため、出される料理も美味しいのだとか。今度利用出来る時が楽しみになってしまった。
「さあ着いたよ、ここが私達のパーティの部屋」
不知火さんに案内されて僕と和泉さんは不知火さんが所属しているパーティが所有している部屋までやって来ていた。
探索者は複数人でパーティーを組んで動くこともあり、中にはパーティーを組んでいないと受けられない依頼もあるらしい。依頼というのはダンジョンに入る人を護衛したり、モンスター自体を討伐したりといったものだ。これは様々な人がギルドに依頼しており、さっきの受付で受注することが出来るらしい。
またパーティーにはランクがあってこのランクでも受けられる依頼が変わるのだそうだ。上位のパーティーになると不知火さんの所属しているパーティーのようにギルド本部に部屋も用意してもらえるらしい。
「「失礼します」」
僕と和泉さんは挨拶をして部屋に入った。中には一人の男性と女の子がいた。男性のほうは年齢が20代くらいだろうか、若々しいけれどどこか威厳のある人物だった。顔立ちはイケメンというよりハンサムと言ったほうがいいだろうか。
女の子のほうはとても小柄だった。黒色の髪を綺麗に肩口で切りそろえたショートヘアで少し気怠そうな雰囲気を纏っている。服装も派手な感じではなくシンプルなものを着ていた、おしゃれにあまりお金をかけるタイプではなさそうだ。ちょっととっつきにくそうだな……。
「じゃあパーティーのメンバーを紹介するね。まずはこっち男の人から。彼が私達のリーダーの岩代さん」
「岩代だ、よろしく頼む」
「そしてもう一人、そこにいるちっちゃい女の子が出雲 梓」
「出雲です、よろしくお願いします」
紹介された二人は僕達に頭を下げる、僕と和泉さんも頭を下げた。
「楓、人を紹介する時にちっちゃいは余計です」
出雲さんと呼ばれた女の子はジト目で不知火さんを睨み、不満を露わにする。どうやら不知火さんにちっちゃいと紹介されたのが気に食わなかったらしい。
「ええ、いいじゃん。梓可愛いんだし、えい!」
出雲さんの不満をものともせず不知火さんは出雲さんに近づいていき、抱きついて頬ずりをし始めた。強く抱きしめられた出雲さんは少し苦しそうである。
「や、やめてくらはい!! かえで! わらひをぺっろみたいにすわないれ……!!」
頬ずりをされたことに抗議の意思を示す出雲さん、しかしその様子がまるで小動物のようでそれこそ可愛いペットのように見えてしまった。
「んん~、この柔らかいほっぺがたまらない!! 梓を吸うのが私の癒やしだよ~」
「い、いや~!! これをいやしにしないれほしいれす! わらひはあいがんろうぶつではなひんですよ!」
出雲さんがとても嫌がっているのに頬ずりを続ける不知火さん、出雲さんの口振りからすると彼女の日課になっているみたいだ。
「その変にしておけ、不知火。あまりやり過ぎると梓の機嫌が一日中悪くて俺も辛いから」
岩代と名乗った男性が頃合いと見たのか不知火さんを止めに入る。
「ちぇ、残念。もっと梓のもちもちほっぺを堪能したかったのに」
不知火さんはとても残念そうに出雲さんから離れる。
「こ、こっちは二度と願いさげです! もう二度とこんなことしないでください……!」
「え~、嫌」
「~~!! 楓~~!!」
ペットのように扱われた出雲さんは不知火さんにその扱いをやめるように言うが彼女が即拒否。出雲さんの顔が怒りに染まっていく。
僕と和泉さんはどうしていいか分からずに固まっていた。
「おい、お前ら」
二人の喧嘩を見かねたのか岩代さんが止めに入った。
「客人が困っているだろ、やるんだったら後でやれ。すまねえな、見苦しいところを見せて」
「い、いえ」
「俺はこのパーティーのリーダーをやってる岩代って言う者だ。君が不知火が言ってた男子か?」
「は、はい、隠岐 悠と言います」
「で、そっちの女の子が……」
「和泉 神楽といいます」
「成程、二人とも今日はわざわざこんなところまで来てくれてありがとう。不知火の勧誘は強引だったろ? こいついっつもこんな感じなんだ。自分が相手に対していいと思ったら相手の都合なんか考えずに話を通そうとする」
「あはは……」
僕は思わず苦笑いをしてしまった、確かに僕も第一印象はまったく話しを聞かない人だと思ったもんな。
「ちょっとリーダー! 私が人の話をまったく聞かない暴君みたいな言い方はやめてよ! 今回だってその子の意思確認はちゃんとしたんだしさ」
「はっ! 現在進行形で傍若無人に振る舞ってる不知火さんがそんなことを言っても説得力はないです! さっきも私の嘆願を無視した振る舞いをしていたじゃないですか!」
「なにを~~」
また争い出した二人を見て岩代さんは深く溜息をついた。この二人を毎回諫めてるなんて大変だなあ……。
「ったく、ほんとあいつらは……。まあいいや、で君は俺達のパーティーに入ってくれるってことでいいんだな」
「はい」
これは不知火さんと話してすでに決めていたことだ。もとより他に探索者のパーティーと繋がりがないからここに必然的に入ることになるんだけど。
「ありがとう。強いスキルの持ち主がパーティーに入ってくれるだけで全体の底上げに繋がるからリーダーとしては助かる。でそっちの和泉さんだっけ? 少し話をさせてもらっていいか?」
「私とですか?」
「ああ、不知火に連絡をとってもらった時、君のスキルについて聞いたろ? その件も含めてちょっと君と話がしたい」
和泉さんに来ていいって許可が出たのはこのためだったか。
「で、隠岐くん。君には迷惑をかけるんだが……一つ頼みを聞いて貰えないか?」
「頼みですか? 僕に?」
「ああ。その……」
岩代さんはなぜか言い淀む。なにか僕に言いにくいことなのだろうか? そもそも探索者になったばかりの僕の頼みごとってなんだろう?
岩代さんは頭を掻きながらしばらく沈黙していたがやがて申し訳なさそうに口を開いた。
「本当に迷惑をかけてすまないんだが……不知火の奴と模擬戦をやってくれねえか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます