第17話

 結局、僕は凄く機嫌の悪い和泉さんと一緒にギルドにいくことになった。どうしてこうなった……。


「うわー……大きなビルだなあ」


 ギルドの本部はとても大きなビルだった。写真とか映像では何度も見たことがあるけどここまで大きいとは……。


「……」


 一方僕の隣にいる和泉さんは相変わらず不機嫌だ。来るときもずっと黙ったままで気まずい雰囲気が流れていたから僕はとても居づらかった。


「えーっと……和泉さん、それじゃ中に入ろうか」


「うん、早く行こうか、隠岐くん」


 僕の言葉に感情の籠っていない声で、簡潔に答えて足早に歩きだす和泉さん。今日は本当にどうしたんだ……。

 ビルの中に入ると入り口のところで茶髪をポニーテールにした美少女ーー不知火さんが僕らを待っていた。相変わらず目立つなあ。


「不知火さん」


「ん? ああ、隠岐くん! 今日はわざわざ来てくれてありがとう!」


 不知火さんは僕達に気付いてこちらに歩いてくる。


「今日はわざわざ来てくれてありがとう」


「いえいえ、僕も了承したことですから」


「それでそっちの子が連絡のあった一緒に来たいって言ってた子?」


「はい」


「初めまして和泉神楽と言います」


 和泉さんは不知火さんに挨拶をし、頭を下げる。がどこか冷たい雰囲気は拭えていない。言葉にもいつもの彼女の柔らかさがなかった。


「あ、これは丁寧にどうも。私は不知火 楓っていいます。よろしくね」


「……よろしくお願いします」


 不知火さんも和泉さんの挨拶に丁寧に挨拶を返す。

 不知火さんは和泉さんが不機嫌なことに気付いていないのかな? 頼むから問題は起きないで欲しい……。

 表だって出してはいないけど和泉さんは不知火さんにいい感情を持っていないのは明らかだ。僕は二人が喧嘩したりしないか内心ひやひやしていた。


「それじゃ私から今日やることを説明しながらこの施設のことも案内するね」


 不知火さんはそう言って僕らの前を歩いてギルド本部のビルを案内しだす。


「ああ、不知火さん、こんにちは」


 途中で遭遇した人が不知火さんに挨拶をしてきた、探索者の人だろうか。


「こんにちは」


「おや今日はなにをされているかと思えば……この方達は?」


「ああ、この男の子は私が見つけた子、もう一人の女の子はこの男の子の付き添いみたいなものかな。私がこの子にギルドに入らないかって言ったら入りたいって返事をもらったからこのビルのことを案内してるところなの」


「へえ、探索者希望の方ですか。しかし不知火さん、あなたがそうやって人を連れてくるのは珍しいですね。あなたは基本的に勧誘をする場合、自分がいいと思った人間しか勧誘しない人のはずですが」


「ひどい言い方だなあ、まあ間違ってもいないけど。まっ、それだけこの子達のことを欲しいと思ったってことよ。じゃ、急いでるからこれくらいでね」


 それから道中何人かの人とすれ違ったけれどこんな感じで皆不知火さんと話していた、彼女はどうやら顔が広いらしい。これだけ明るくて話上手なら無理もないか。


「はい、最初の目的地についた。ここが探索者としてのライセンスの登録をするところ。まずは隠岐くんの探索者としてのライセンスの登録をするからこっちに来てね」


「は、はい」


 不知火さんに導かれるままに僕は彼女についていく。


「こんにちは」


「あら、不知火さん、こんにちは。今日はどんな要件でこちらに?」


 受付のお姉さん、凄い綺麗な人だな……。


「この子のライセンス登録をしたくて。探索者希望者なの」


「そうなんですか。なかなか勇気がありますね」


 なかなか勇気がある? どういうことだろう?


 僕が不思議そうな顔をしているのを見た受付のお姉さんが解説を始めた。


「スキルを持っている人が全員探索者になるわけじゃないの。やっぱりダンジョンでモンスターと戦ったりして命の危険もあったりするからね。スキルに目覚めても嫌って人はいるから。あなたも無理してない?」


「い、いえ僕はちゃんと自分の意思で探索者になりたいっていいましたので。無理とかはしてないですよ」


「ちょっと! 私が強引に誘ったみたいな雰囲気にするのやめてくれる!」


 不知火さんの抗議に受付の女性はクスクスと笑う。随分とノリのいい受付の人だなあ、会話が漫才みたいだ。


「まあ、危険が伴う分待遇もいいわよ、モンスターを討伐した時に素材を換金したらそれなりにお金にもなるし」


 不知火さんが結構よさそうな服とか着てるのってそういうことだったのか。


「だからここはよくも悪くもすべてが実力主義よ。よくはないけど力を示せば大体のことは通ってしまう面もある。すべての人間がそうってわけじゃないけどこの前あたしが倒した君の友人みたいな人間もたまにいるから気を付けてね」


 不知火さんは嘆息しながら話す。まあ丹波くんみたいな人間がいるのはどこでもそうなんだろうけどね……忠告はありがたく受け取っておこう。


「気を付けておきます」


「まあ君の強さなら大丈夫だよ。大抵の探索者は返り討ちにできそうだし」


「そ、そんな! それは流石に言い過ぎですよ」


「お話中悪いけどおしゃべりはこれぐらいにしましょうか、手続きを進めたいの。はい、それじゃ君のスキル名と効果を登録するから教えてくれる」


「あ、はい。えーっと……」


 受付のお姉さんに聞かれて僕のスキルの効果をどう伝えたものか頭を悩ませる。スキルで出来るのはあの魔剣を作ることをでいいのか? 身体強化はあの魔剣が与えてくれる副次的な追加効果だし。


「それで大丈夫です。スキル名も『魔剣創造』で伝えていいと思われます」


 アナウンスの回答があったのでこれで伝えることに僕は決めた。


「僕のスキルは剣を作ることです」


「剣を作る? また変わったスキルね。名前は?」


「……『魔剣創造』で……」


「……魔剣とはなんとも物々しいスキル名ね。今までに聞いたことの名前だわ」


 うーん、僕もちょっと言うのは恥ずかしかった……。受付のお姉さんの反応が辛い!


「まあいいでしょう。ちょっと待ってて……はい登録おしまい。はい、これがライセンスカードね。なくさないように気をつけて」


「はい、ありがとうございます」


 受付のお姉さんからカードを受け取った僕は頭を下げる。


「はい、これであなたも無事探索者として行動出来るようになったね。おめでとう。次は私とパーティを組んでる人達を紹介するからついて来てくれる?」


 僕のライセンス登録が終わったのを確認した不知火さんは再び和泉さんと僕をつれてギルド本部の案内を始めた。

 

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