第14話

「はい、おしまい。うーん、やっぱりこんなもんか」


 不知火さんは酷くつまらなそうに言う。丹波くんが一方的にやられたことに僕や彼の取り巻きは驚いていた。


(あんなに一瞬で丹波くんを……)


「凄い……」


 あっという間に丹波くんを倒してしまった不知火さんの実力に僕は感嘆する。


(僕も探索者になって経験を積めばあれくらい強くなれるんだろうか)


 あれくらい強ければ僕も大事なものをちゃんと守れる人間になれる気がした。不知火さんのようになりたいな。


「ねえ」


 そんな僕の言葉に反応せず、この結果が当然のように振る舞っている不知火さん。彼女は丹波くんが倒されたことに動揺して、ぼうっと突っ立っている彼の取り巻き達に問いかける。


「まだあたしと戦うつもり? あたしは別にやりあってもいいんだけどさ、あんた達はちゃんとやる気があるのかな?」


 不知火さんの問いかけに答えられるものはいない。取り巻き達はじりじりと後退り、やがて思い思いに逃げ出した。


「あーあ」


 取り巻き達が逃げ出したのを確認した不知火さんは盛大に嘆息していた。


「ほんと中途半端に自信のある雑魚の相手は時間の無駄だね。君と楽しく過ごせた時間が台無しになっちゃった。というかあいつら君を知ってたみたいだけど知り合いなの?」


「……僕のクラスメイトですよ。まあ仲のいい友人というよりは喧嘩を仕掛けてくる相手って言ったほうがいいかもしれないですね。彼はいっつも僕につっかかったって来ている人間と思ってもらえれば」


「ああー、成程。で、じゃあ一応倒してはよかったわけか。君もあんなのに絡まれるなんて大変だね。あんなんだけど普通の人からしたら結構脅威だろうしさ」


 不知火さんの指摘通りだ。丹波くんはあのスキルがあったおかげで学校でも好き勝手出来ていた。


「ま、そういうやつにはこうやってお灸を据えておくのが一番でしょ。さっ、行こう。君をちゃんと家まで送らないと」


 不知火さんはそう言って僕の手をとり引っ張る。暖かい彼女の体温が握られた手から伝わってきた。



「へえ、ここが君の家かあ。結構立派なところだねえ」


 不知火さんは結局宣言通りに僕を家まで送ってくれた。あの後は特にトラブルもなかったのでわざわざついてくる必要はなかったのだけど彼女は最後まで付き添ってくれた。


「今日は本当にありがとうございました」


「ううん、お礼言わないといけないのはこっちのほうだよ。学校にいきなり押しかけて勧誘しにきた私の話をちゃんと聞いてくれたんだからさ。それじゃ後で都合のいい日の連絡をよろしくね」


「はい」


 不知火さんは踵を返して去っていく。僕は自分の部屋へと向かうとベッドに腰掛けた。


「今日もいろいろあったなあ。というか秋葉原のダンジョンの一件からいろいろ僕の周りの環境が変わり過ぎてなにがなんだか」


 秋葉原でスキルが目覚めてあのサイクロプスと戦った日から僕の生活は変わり始めていた。それを僕は悪いと感じていない、今日のように自分の力が評価されるようになったりと僕にとっていい方向に進んでいるからだろうけど。


「さて今日はもう疲れたから風呂に入って寝ようかな。不知火さんへの連絡は明日にしよう」


 その後僕は風呂に入ってからベッドに横になった。疲れのせいか横になってすぐに眠気が襲ってきて僕はまどろみの中へと落ちていった。

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