第15話

 不知火さんに初めて誘われた日の後、日程を合わせてギルドに行くことを約束していたけど今日がその日だ。学校の授業が終わった後、僕は急いで荷物をまとめて不知火さんと会う約束をしているギルド本部へ向かう用意をした。ちなみに丹波くんはしばらく学校を休みになったらしい、この前不知火さんにやられたのが響いたようで個人的には自業自得と思うので同情はしない。


「よし、急いで行こう」


 荷物をまとめて僕は教室を出る。


「隠岐くん、どこに行くの?」


 教室を出たところで僕は後ろから呼び止められた。振り返って呼び止めた人物を確認する。そこには和泉さんが立っていた。


「和泉さん、どうしたの?」


「いや、急いで帰ろうとしてたからなにかあったのかなと思って」


「ああ、いやなにか大変なことがあったわけじゃないよ。ちょっと人と会う約束をしてるから急いでるだけ」


「人と会う約束? それってもしかしてこの前隠岐くんに会いにきてた女の人?」


「そ、そうだけど……」


 あの日のことは学校で話題になっていた、謎の美少女が冴えない僕に会いにきたということで次の日僕が学校に来ると周りの皆から質問責めにあった。彼女なのかとかしつこく聞かれたなあ……今、思いだしても結構きつかった……

 それにしてもなんか今日の和泉さんは圧が強いな……彼女を怒らせるようなことは言ってないと思うんだけど……。


「ふうん……」


 和泉さんはジト目で僕のことを見つめてくる。え? どうしてそういう表情をするの!? 本当になに!?


「その人とはなんの関係もないって言ってたけど本当なの?」


 心なしか拗ねた様子で疑いの目を向けてくる和泉さん。


「それは皆にも言ったけど僕とあの人の間にはなんの関係もないよ。皆がいうように僕はあの人の恋人というには役不足だしさ」


 質問攻めにあった時に嫉妬心からか同じ男性になんでお前みたいな奴があんな美人と知り合いなんだよ、釣り合ってないとやっかみを受けたんだよね……。その言葉の中身自体は間違ってないと思うけど人の嫉妬心をもろに受けるのは辛かった。あれを味わうとモテるっていいことばかりじゃないんだなって初めて思えたよ。


「じゃあなんであの人は隠岐くんに会いに来たの? 他に理由があったんでしょ」


 なおもしつこく食い下がってくる和泉さん、本当に今日はどうしたんだろう。これはきちんと事情を説明するまで引き下がらないかもしれない。


「その実は……」


 和泉さんに根負けした僕はそれから彼女に不知火さんはあの日のサイクロプスとの戦いを見て僕のところへやってきたこと、そして彼女にギルドに入らないかと誘われたこと、今日はギルドに入るための説明を受けに行くことを説明した。


「ふうん」 


 僕の説明を聞いた和泉さんは納得はしているようだがどこか不満があるような表情をしていた。


「ねえ、そのギルドの説明に私もついていっちゃ駄目かな?」


「えっ!?」


 和泉さんの申し出に僕は困惑してしまう。彼女はギルドに入るような理由もないはずだし、どうして僕の説明についてくるなんてことになるの!?


「い、和泉さんは今日僕についてくる必要はないはずでしょ!?」


「私がついていきたいからいくの。まあ相手の人が駄目って言ったら考えるけど」


 こ、この雰囲気は駄目っていってもついてくるパターンなんじゃ……。


「う、うーん。とりあえず聞いてみて許可が出たら僕が止めることじゃないからもうなにも言わないけど」


「だったらその人に連絡をとってよ。そこで私が一緒に行っていいって言われたら私もいく」


 駄目だ、この調子だとちゃんと確認しないと引き下がりそうにない。


「分かった。ちょっと待ってて、今聞いてみるから」


 そう言って僕はスマホのチャットアプリで不知火さんに連絡をとる。メッセージを送るとすぐに返事が返ってきた。


「あっ、返事が返ってきた」


「その人はなんて言ってるの?」


「えーっと友達も一緒に連れてきていいよ。ただその子がもしスキルを持っているならギルドに来た時にどんな力か教えて欲しいって。そこで聞いた話は絶対に漏らさないとも」


「……」


 和泉さんはしばらく考え込む、考え込んでいる間にも彼女はどこか剣呑な雰囲気を纏っていて正直怖い。


「……いいよ、教えても。実際にギルドの人なら約束を破った時の罰則のほうが重そうだし」


「じゃあ不知火さんにも伝えるね」


 僕は和泉さんから了承を得たことを不知火さんに伝える。


「ふうん、その人不知火さんって言うんだ」


「う、うわあ!!」


 いつのまにか和泉さんは僕の横に立ってスマホの画面を覗き込んでいた。本当いつの間に移動したの?


「お、驚かさないでよ! 心臓が止まるかと思った」


「随分と気さくな感じの人そうだね、その不知火さんって人」


「う、うん。凄く明るくて話しやすい人だよ」


 僕の回答に和泉さんは黙り込む。しかし不機嫌なのは雰囲気で伝わってきた。


「……まあいいや。それじゃギルドの本部とやらに行こうよ」


「えっ? ちょ、ちょっと待ってよ!」


 足早に歩き出した和泉さんに僕は慌てて追いすがる。なぜかずっと不機嫌な彼女を伴って僕はギルド本部に向かうのだった。

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