第12話
「さてここなら静かに話せるでしょ」
不知火さんがそう言って連れて来たのはカラオケボックスだった。なすがままの状態で連れてこられた僕だけど女性と2人きりで密室という状況はまずいのでは?
「あ、あの!?」
僕は勇気を出して不知火さんに声をかける。緊張からか声が上擦ってしまった。
「ん? なに?」
「こ、こういう場所に男女2人きりはまずいと思うんですが……」
僕の言葉に不知火さんは一瞬きょとんとした後、吹き出した。
「あはははははははは! なんだ。そんなことか」
不知火さんは大笑いしだした。結構真剣に言ったのにそんなに笑われるとなんだか悲しい。
「いや、ごめん。けど君まずそういうことしない性格だし、やる根性もないでしょ」
せ、性格見抜かれてる……! 不知火さんの容赦ない指摘に僕はなにも言い返せない。確かに僕はそんなこと出来るような根性はないけど。
「あ、黙り込んだってことは図星かな? って泣きそうになってる! ごめん、ごめん!」
僕が泣きそうになったのを見て慌てて謝ってくる不知火さん。
「いえ、不知火さんの言ったことは間違っていませんから。僕が意気地なしなのは間違っていませんから」
「ああ、もう! そんなに落ち込まないで! いや落ち込むようなことを言ったあたしも悪いけど!
本当今の一連の流れはあたしが悪かった、君は私に変なことをしなかったのでむしろ偉いよ! えーっ……この話は終わり!ほ、本題に入るよ!」
「は、はい」
「あたしの名前はもう言ったわね。そしたら次はあたしが何者かについて話そうか」
不知火さんは調子を取り戻して話の本題に入った。僕も気持ちを切り替えて彼女の話を聞く。
「あたしはギルドの探索者なの。所属しているパーティーは天の双剣よ」
不知火さんが名乗った経歴に僕は驚く。
探索者というのは元々ダンジョンが現れ始めた時はダンジョンに挑戦する人を指す言葉だったが今ではギルドに所属してライセンスを持っている人達のことを指すようになっている。
ギルドと言うのは探索者をまとめている組織のことだ。ダンジョンが現れ始めてモンスターが人々の生活をこの前のように危険に晒すこともある。そういったことの対処のために作られた組織だ。
現在はダンジョンで取れる資源が有用であることが分かってきたのでその資源を採掘する時の護衛など業務も多岐に渡っている。そのため運営資金の出資者も行政や企業など様々なところが参加している巨大な組織だ。
「そんな一大組織の人が僕のような一介の高校生になんのようですか? ギルドのような組織が僕に話をしにくるようなことって思い至らないんですけど」
「君さ、あのモンスターが秋葉原に出たときあそこに出たA級のサイクロプスを倒したでしょ」
「……見ていたんですか」
「あ、やっと隠さなくなったね。まあそういうこと、ギルドの人間で見たのはあたしだけだと思うけど。で、」
不知火さんは僕のほうに身体を乗り出してくる。にっこり微笑んで彼女は僕に語りかけてくる。
「君、凄いよ! Aランクのモンスターをあんな簡単に倒しちゃうなんて! ギルドの中でもあんなふうに出来る人はなかなかいない、だからあたしが君をギルドにスカウトしたいって言って今日ここに話をしにきたってわけ」
不知火さんがあの時の僕の戦いを見てギルドにスカウトするために今日ここにやってきたことは分かった。
でもそれなら、
「不知火さんがどうして僕のことを知っているかは理解しました。だけど僕はそれほど強くはないです。この前の戦いも運よく勝っただけですよ」
実際に理由も分からないのにスキルが目覚めてあのサイクロプスを倒してしまったのだから僕の言っていることに間違いはない。
不知火さんは僕のことを過大評価しているように思えた。
「君、そういう謙遜はよくないぞ」
不知火さんは僕の鼻を人差し指で軽く小突く。
「わっ……!」
「出した成果はきちんと自分で受け止めないと。あまり否定ばかりしてると人を苛立たせるよ。君は私から見ても凄い結果を出してるんだ、だからもっと胸を張っていい。私だって実力がないと思ってる人間をギルドに招こうなんてことを思うわけないでしょう」
不知火さんは真剣に僕に語りかけてくる。今まで自分のことを評価してくれる人はいなかったからこうして真正面から自分を褒めてくれる人があまりいなかったから僕は彼女からの評価を嬉しく感じていた。
それに……探索者に憧れていたからこの申し出は尚のこと僕にとっては嬉しい。
「……僕でもやっていけるでしょうか?」
「うん、君の実力なら大丈夫だよ。だってAランクのモンスターを1人で倒しちゃうんだしね。さっきも言ったけどそんなことが出来る人はギルドの中でもそういないよ」
「……分かりました、僕の力を評価してもらえたのは嬉しいです。ギルド加入の件、受けます」
僕の回答を聞いた不知火さんの表情が明るくなる。
「本当!? やった!! それじゃこれからよろしくね、隠岐くん! ギルドに入った時のお世話とかあたしがするからさ」
不知火さんは握手するために手を差し出してくる。僕はその手を力強く握り返した。
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