第7話

「ほらマンションに着いたよ、隠岐くん」


 秋葉原からの帰り道、和泉さんは結局宣言通りに僕に付き添って家まで送ってくれた。ここまでしてもらって頭が上がらない。


「ありがとう、和泉さん。家まで送るからって言ってくれて」


「いいの、私が出来るってこれくらいだから。隠岐くんは気にしなくていいの」


 さっぱりとした感じで言い切る和泉さん。うーん、だからってここまでしてもらうのは悪い気がするけど。あ、でもあまり好意を受け取らないのもよくないかもな……。

 

「それなら言葉に甘えようかな、もう気にしないようにするよ」


 僕の言葉に和泉さんは満足そうに微笑む。


「うん、それでいいよ。じゃあここでお別れだね」


 和泉さんはそう言って踵を返して去っていこうとする、しばらく歩くと彼女はこちらを振り返った。


「隠岐くん、また来週学校で会おうね! 後、今日は守ってくれて本当にありがとう! 戦ってる時の隠岐くん、格好良かったよ!」


 そう言って手を振って彼女は足早に去っていった。その一連の動作がとても可愛い。


「って僕はなにを考えているんだ」


 頭に浮かんだ邪な考えを振り払って僕はマンションのオートロックを鍵で解除してエレベーターに乗り、自分の部屋へと戻る。

 自分の部屋のドアを開けて自室に戻ると僕はベッドに倒れ込んだ。

 

「つ、疲れた……!」


 ベッドに倒れ込んだ途端、疲れがどっと出てくる。体が急に重くなったように感じた。


「今日は本当にいろいろなことがあったなあ」


 まさかただのパソコンの下見に行っただけでダンジョンの出現とモンスターとの戦いになるとは思っていなかった。


 そしてなにより僕にとって大きな出来事ーースキルの覚醒。今日の出来事の中で僕にとって一番重要なことだ。


 その授かったスキルでA級モンスターのサイクロプスを相手にしたと昨日までの自分に言ったら信じてもらえないだろう。しかもスキルを持っていても相手にすることが困難な相手に勝ってしまったのだからなおさらだ。


「あれだけあればと願っていて手に入らなかったのにどうして今日になって目覚めたんだろう」


 スキルが覚醒してからずっとその点が引っかかっていた、なぜ今日のサイクロプスとの戦いの時にあの『魔剣創造』のスキルが目覚めたのだろうか? 理由を考えてみても今の僕には分からなかった。

 それにこれから自分のスキルについてもいろいろ調べないといけないことが出てくるだろうな。あのアナウンスについてもまだ良く分かっていないし。他の人はスキルが目覚めた時にあんなふうに解説する音声みたいなのってあったんだろうか。

 

「とりあえずやることが山積みになっちゃったな。明日は日曜でまだ学校が休みだしいろいろスキルについて検証しよう。戦いの後にアナウンスが言っていたポイントについても確認しないとな」


 やることが増えたはずなのに自分の心にはそれが嫌だという感情はまったくなかった。むしろ自分からいろいろ調べてみたいという気持ちになっている。


「ふふ、こんなふうに前向きな気持ちになれたのはいつ以来だろう」


 スキルが使えないことでいろいろと酷い扱いを受けて無力感を抱えて生きてきた。そのせいでいろいろなことを自分からやってみたいと思うことがあまりなかったからなあ。スキルを手に入れただけで人生すべてがうまくいくとは思っていないけどこの気持ちは大事にしていきたいな。


「もっと頑張って自分に自信もつけていけたらいいな、そのために自分のスキルの把握は頑張ろう。でも今日はもう寝ようかな・・・・・・」


 瞼が重くなってくる。駄目だ、もう限界だ。


「よ~し~、明日も頑張るぞ~」


 なんとも気の抜けた声で明日やる予定のスキルの把握に向けて気持ちを高めながら僕は限界に達して眠りに落ちていった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る