第6話

「隠岐くん!」


 和泉さんが戻ってきた僕を見て駆け寄ってくる。


「和泉さん、ただいま」


「よかった、無事で。本当にあのモンスターを倒しちゃうなんて……」


「僕も驚いてるよ、あそこまて戦えると思ってなかったから」


 スキルに目覚めたからといってモンスターを必ず倒せるわけではない。特にサイクロプスのようなAランクのモンスターを倒すのは戦い慣れた人でも困難だ。

 そんな相手に僕は勝った、あまり調子に乗りたくはないけど少し自分に自信がついた。この結果は誇ってもいいと自信が持てない僕でも思ってしまう。


「あっ……隠岐くんちょっと動かないでね」


 和泉さんがなにかに気づいたように声を漏らす。彼女は僕の頬に触れてきた。なにかを確認するように顔をこちらに近づけてきた


「えっ!? なに和泉さん一体どうしたの!?」


 彼女の突然の行動に僕は戸惑う、一方和泉さんはそんな僕のことなどお構いなしに頬に手を当てて顔を近づけたままだ。


「隠岐くん、怪我してる」


「え?」


 和泉さんの指摘に僕ははっとする。自分の手で和泉さんが触れた場所を触ってみる。


「あ、あの時かな」


 サイクロプスとの戦いの時に間一髪で攻撃をかわした時かあったけどあの時についたのかな、戦いの時はそんなことを気にしている余裕がなかったから全然気づかなかった。


「私が治すよ」


「い、いやいいよ!! 大した傷じゃないし放っておいたら治るだろうから」


 傷自体はかすり傷だから自然と治るものだ、放っておいても問題ない。


 それよりも……


(い、和泉さん、ち、近い!)


 和泉さん、意識してないのかも知れないけど距離が近いよ! 凄く恥ずかしいんだけど……! 異性の友達があまりいない僕はこういうことに免疫ないから変に緊張して落ち着かない気分になる!


「嫌がらないで。私は君に守ってもらったんだからこれくらいさせてよ」


 僕が止めるのも聞かず和泉さんは僕の傷口に彼女の手をかざした。光が彼女の手から溢れ、僕の傷はあっという間に消えてしまう。

 これが和泉さんのスキル『天使の癒し手』の力だ。彼女のスキルは傷を治療するというものだ。僕の『魔剣創造』とは違って非常に分かりやすいスキルだけど自分の力の把握をしやすいので使いどころを考えやすくていいなとスキルを得た今ではそんなことを考えてしまう。本人はもっと攻撃とか出来るスキルのほうがよかったと言っていたけど和泉さんの優しい性格にはこういうスキルのほうがあってると思うな。


「はい、きちんと治った。これでよし。」


 和泉さんがスキルを使って僕の傷がちゃんと治ったか確認してから離れる。や、やっと離れてくれた……! 陰キャの僕は女性から寄ってこられることに免疫がないので離れてくれたのはありがたい。


「あ、ありがとう。なんかごめんね、スキルを使ってまで治してもらって」


「気にしないで。言ったでしょう、私は今日隠岐くんに守ってもらったんだからこれくらいさせてって。じゃないと私の立つ瀬がないよ」


 今日は嫌にきっぱりと自分の意思表示をしてくるなあ、和泉さん。


 普段の彼女と比べてそんなことを考えていた僕は周囲が騒がしくなってきたことで我に返る。


「あ、いけない。結構人が集まってきてる」


 ダンジョンと繋がってモンスターが出現したところには様々な組織の人達が集まってきていた。後は彼らが残ったモンスター達をなんとかするだろう。


「和泉さん、それじゃ帰ろうか」


 疲れ果てていた僕はもう自分の家に帰りたかった、スキルを使った反動なのかは分からないけど疲労が今になって一気に襲ってきている。早く家のベッドに飛び込みたい。


「うん、そうだね。今日はいろいろあったからもう家に帰ってゆっくり休もう。隠岐くんの家まで一緒に私も付き添うよ、私の家も近いしね」


 僕が疲れていることを察したのか和泉さんはなにも言わずに僕の言葉に従い、突きそうようにして僕と一緒に帰路を歩いてくれた。


 こうして僕の波乱に満ちた一日は幕を閉じたのだ。

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