第4話
「……今の動きって……」
気がつくと僕は和泉さんの目の前に立っていた。自分でもなにが起きたかよく分かっていたい。ただ彼女を助けたいと思って駆け出しただけだった。
「これって移動したのか? あそこから」
自分のやった行為をまだ信じられない。自分と和泉さんの距離はかなりあったはずだ。その距離を一瞬で僕は移動している。
「魔剣による身体強化の効果が発動しました」
僕の疑問を読み取ったかのようにアナウンスが解説を行う。これも魔剣の効果なのか……。
考え込んでいた僕の意識はサイクロプスの重々しい足音によって引き戻された。そうだ、早くこいつを倒さないと。
「なあ、この魔剣の効果で今僕はどんな状態なんだ?」
頭の中でアナウンスに尋ねてみる、返事はあるんだろうか。
「現在発動している効果は身体強化のみです」
無機質な声でアナウンスから返答があった。どうやら手に入れた効果はこれだけらしい。少し心もとない気がするけど、
「そうも言ってられないよ」
さっきの移動速度を考えると身体強化の状態でも充分な強化がされているような気がした。これならうまく立ち回ってサイクロプスの気を引けるかも。
「よし」
僕は覚悟を決めて魔剣を構え、サイクロプスと向き合う。攻撃を邪魔されたことが不快だったのか、一つ目の巨人は僕をじっと見ていた。完全に僕に狙いを定めたらしい。吹き飛ばされた棍棒を回収したサイクロプスはそれを振り上げて僕目掛けて振り下ろす。
まずい、このままだと和泉さんが巻き込まれる。
「きゃっ!」
僕は後ろにいる和泉さんを肩に抱えてサイクロプスの攻撃を回避する。乱暴なやり方になってしまって申し訳ないけど非常時だから我慢してもらうしかない。
和泉さんを抱えてサイクロプスから距離を取った僕は彼女を戦いに巻き込まない場所まで連れて行って肩からおろした。
「ごめん、乱暴なやり方になっちゃって。和泉さん怪我はない?」
「う、うん、大丈夫だよ。それより隠岐くん、その剣は一体なに? 私を担いで移動しても苦にしてないみたいだし……」
和泉さんが僕の変わった様子を見て戸惑っている、僕自身も今の自分の状況についていけていないところがあるからどう説明したらいいんだ……。
「僕自身も自分の変化を理解出来ていないところがあるんだけど……どうやら僕にもスキルが目覚めたみたい」
「え、ええ!?」
和泉さんが驚いて声をあげる。それはそうだろう、今までスキルが使えていなかったのに急に使えるようになったなら誰だってそういう反応をする。
「ほ、本当に? な、なんで突然こんな時に目覚めたの? 火事場の馬鹿力みたいな感じなのかな?」
「僕にも分からないよ。ただこのスキルのおかげで和泉さんを守ることが出来た」
この力がなんで今になって目覚めたかは分からない、けれど僕にとって大事な友人を守ることが出来た。
その事実は僕に充足感をもたらした。力がないことの苦しみから僕はようやく解放された気が少しだけしたのだ。
「和泉さんはこのままここから離れて」
「隠岐くんはどうするの?」
「僕は……あいつを倒すよ。放っておくとあいつは街を破壊してしまうだろうし。今の僕にはそれが出来ると思うから」
「……」
和泉さんはじっと僕を見つめる、そんなふうに見つめられると気恥ずかしいんだけどな。
「分かった、隠岐くんも根拠なく言ってるわけじゃないみたいだし。私のスキルは戦闘じゃ役に立たないから戦いには参加しないよ。ただ……ここからは離れないから」
「えっ!?」
「友人が戦ってるのを見捨てて逃げるなんていくら臆病な私でもしたくないよ。それに私のスキルは戦いが終わってからのほうが役に立つと思うから」
「分かった、でもここから動かないでね」
「うん、分かってる。……気をつけてね」
心配そうな和泉さんの言葉に頷くと僕は一つ目の巨人の元へと向かった。
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