第5話 体育祭準備編最終日
週が明けた月曜日。土日に愛莉たちに遊びに誘われ、何だかんだで暇せずに過ごせた。莉々菜が来なかったのが少し意外だったが。しかしこうして今も転校してからずっと一緒だったメンツで朝のHRまでの時間で雑談している。もちろん話題は体育祭メイン。不意に教室の他の人の会話に耳を傾けてもみんなやはり同じ話題で持ちきりだ。今日はどうやら俺が転校する前に発注したクラスTシャツが届くみたいで俺は一枚だけある予備を貰うことになった。
その日の5限からは体育祭準備で授業がない。授業開始のチャイムとほぼ同時に先生とその日の日直がダンボールを抱えて教室に入ってきた。多分クラスTシャツだろう。
「は〜い前頼んでたTシャツ届いたので配ります。名前呼ばれたら前に来てね」
どうやらTシャツの後ろには自由に文字を記入できるらしくみんななにかしらの弄り文言がプリントされていた。
「お前・・・”不法入国者”って」
よく一緒にいるグループでもその話題で持ちきりで若干髭の濃い颯太は”不法入国者”という文言を入れられていた。これを考えたのは同じく俺らとよく遊ぶ仲の颯斗らしい。
クラスの他の文言を確認すると
「#菅田将暉の嫁」
「学年一の美少女」
「わき毛三銃士」
「前世はビオトープ」
「羅生門在住です」
など高校生らしく絶妙に滑ってたりご時世的にグレーな文言を皆背中に背負っていた。
「最後に萩原くん」
予備Tシャツをもらう俺は一番最後に呼ばれた。
「春渡〜はいこれ〜」
クラスTシャツ係だった莉々菜が笑顔で渡してきた。嫌な笑顔だ。
俺は恐る恐る背中の文字を確認するとそこには
「狂気乱舞」
と書いてあった。どうやら俺のダンスが下手なのをイジっているらしい。狂喜だろ普通。
「これ、私土日に急いで作ったんだよ」
予備なので背中の文字はプリントされていなかったらしく、土日に莉々菜が黒い素材を切って手作業で作ってくれたらしい。手作業で作るのに四字熟語選んだのかコイツ。手間かけてくれたのは嬉しいけどそこに土日使うなよ。
ちなみに莉々菜の背中には
「しんちょうください」
と書いてあった。アイツって身長イジられていたんだな。
今週に入り体育祭の種目決めが行われ、俺は「100m走」「リレー」「借り物競走」の3つに選ばれた。体育の時間に全員で走った時に俺は意外に足が速いことが判明した。ダンスは下手だけど。ってことで基本走ることが多い種目多めに選ばれたというわけだ。
この日も最後にダンス練習があったが莉々菜の特訓のおかげで少し踊れるようになったのが結構嬉しかった。まだ完璧ではないけど。
そして体育祭の準備を通じて俺は一つ心に決めたことがあった。
「体育祭が終わったら、愛莉を2人で遊びに誘おう」
この準備期間を通じていろんな人と関わる機会があったのだが特に愛理とは話が合うし何より一緒にいて楽しかった。そして可愛い。俺の気持ちは完全に愛理に傾いていた。莉々菜とは出会ってまだ一週間だが世話も焼いてくれてなんていうか腐れ縁みたいな何かを感じてしまい、愛理に傾いたというわけだ。
「愛莉〜一緒に帰らない?」
放課後愛莉を誘って一緒に帰ることにした。この時俺は莉々菜がこちらを見つめていたことに気が付かなかった。
濃すぎる転校2週目も楽しすぎてあっという間に過ぎていき、気づけば体育祭が明日に迫っていた。
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