第4話 本能には逆らえないもので

男という生物は常に本能に従って生きている


例えば街中でおばあちゃんのパンチラに遭遇した場合でも本能で目線をやってしまい後悔した経験は誰にでもあるだろう。多分。しかしそれが思春期男子の目の前で同級生の体操服の美女がマンツーマンでダンスを教えてくれてるとしたら、それはもはや災害である。

俺、萩原春渡はダンスが壊滅的すぎるという理由で友達の莉々菜にマンツーマンレッスンを受けているのだが、頭の中はそれどころではない


「とりあえず最初はこんな感じね」


莉々菜が何か言ってる


「おう!」


めっちゃ適当に返事した。世の中の返事の9割は肯定しとけばどうにかなる

「じゃあやってみて!」


莉々菜に笑顔で言われたがマズい。なに一つとして覚えてない。


「ご、ごめん もう一回最初から教えてくれない?」


こういう時は素直にいうのがベストだ。


「も〜ちゃんと見といてよね」


すんません。ヒト科ヒト属として本能には逆らえないもんで。


この甘酸っぱいダンスレッスンの時間は1時間も続いた


「春渡くんよかったら一緒に帰らない?」


放課後、珍しく愛莉からのお誘いだ。可愛い子に一緒に帰ろうと言われるのはめちゃくちゃ嬉しい。


「いいよ。ちょっと待ってて」


俺は急いでカバンに荷物を詰めて教室を愛莉と共に後にする。普段は莉々菜と帰ることが多いから新鮮な気分だし普段グループでしか関わらない子と一対一で少し緊張している自分がいる。


「今日のダンス、めっちゃおもろかった」


会話の切り出しに悩んでいたら愛莉から今日のダンスをイジられた。愛莉は比較的コミュ力が高いし聞き上手だし正直話していて楽しい。


「え〜今日だけでそれ6回目ぐらい言われてるんだけど」


俺のダンスが下手すぎるという話を軸に会話は弾み、気がつけば別れの場所まで来てしまった。


「じゃあ私こっちだから。週明けもダンス頑張ろ!」


「おうよ!じゃあな」


無難な挨拶でそれぞれ帰路に着いたがつい数分前まであんなに楽しく会話していたのに急に1人になるのは寂しい。そういえば颯太がさりげなく愛莉には彼氏が今いないと言ってたのでワンチャン狙ってみるのもありかな。あ〜でも莉々菜も可愛いんだよな〜 っと別に向こうが好意を抱いてるわけでもないのに一方的な妄想に浸っている自分に嫌気がさしている間に寮に着いた。


記憶をなくして目覚めてから一週間も経ってないのに今の生活はとても充実している。自分のことは誰も知らない新しい学校での生活ということもあり記憶が戻る前の自分を知る人間は周りにいないから前の自分がどんなのだったか知る術もないし正直今はどうでもいい


「あ〜俺青春してるな〜」


1人になり不意に学校での自分を俯瞰するとまるで絵に描いたような学校生活だ。いつまでもこの生活が続けばいいと思うし、来週の体育祭は彼女を作る絶好のチャンス。誰か遊びにでも誘ってみよようかなと1人妄想に浸りながらこの日は疲れもあってすぐ眠りについた。

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