読者への挑戦状

 物語を一度中断してまで述べることではないが、登場人物の中に一人だけ嘘をついている人間がいる。

 毒龍邸と呼ばれる曰く付きの屋敷で、大地主の娘が殺された。この謎を解き明かす為の情報は、すべて作中に提示されており、現時点であなたはレイカ嬢を殺害した犯人を指摘することができる。

 もし仮にあなたが、玲華嬢に日頃から小言を言われ恨みを持っていた使用人が殺した、などと思っているのであれば、それは全くの見当違いである。作者からすれば、トリック自体は本当に馬鹿げたものである。真面目に取り合うべき代物ではない。

 ちなみに、玲華嬢の部屋の扉についての詳細な描写が一切ないことに関しては、あまり触れないで欲しい。過去の二つの不審死は、確かに重要な要素のひとつではあるが、これについてもあまり考えなくて良い。

 数々の本格ミステリを産み出してきた先人たちにならい、敬愛の意を込めて、古典的作法に基づき、この一文を掲げなければならない。

 私は、読者――そして、青木書房に挑戦する。

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毒龍邸の殺人 東雲隆次 @ryuuji_shinonome

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