第21話 伝説

雪の町。大陸の最北、険峻な山脈に囲まれた盆地にある、一年を通じて雪に閉ざされる町を、三人の冒険者がおとずれた。


「こんにちは~。って、誰もいませんね」


町と名付けられているが、人が住んでいたのは遥か昔の話だ。


「当たり前だろ。こんなところで人間が暮らせるもんか」

「でも、建物は結構残ってますよ」


一部は雪の重みで潰れ、廃屋になっているが、いくつかはまだ人が住めそうな状態を保っている。


「建物が残ってたって、こんな寒い場所じゃ暮らせないだろ」


ひとりがくしゃみをした。


「伝説だと、ひと昔前の勇者が訪ねたときはまだだれか住んでたらしいけどな」


いまは廃墟となっていて、あちこちに昔の住人が作ったであろう雪だるまだけがさびしく取り残されている。

そのひとつを優しく撫でる。


「この子たち、どれくらいここにいるんでしょうね?」

「さあな。少なくとも俺たちが生まれるよりずっと昔からだろ」


町を歩く三人はひとつのかまくらを見つけた。


「今日はここに泊まろう」


氷を積んで作られたかまくらは三人が入っても十分な広さがある。


「風が吹かないだけでも大分マシだな」

「火、使っても大丈夫ですかね? 氷が溶けたりしませんか?」

「大丈夫だ。俺は雪国の生まれだが、昔はよくこんなかまくらを作って皆で鍋をつついたりしたもんだ」


ひとりが魔法を唱え、床に並べた炭に火をつけた。


「あったかい」

「さあ、飯を作ろう。今日はトナカイのスープだ」

「待ってました!」


夜。仮眠をとった冒険者らは起きて表にでる。


「出たか」


空に虹のカーテンがかかっている。オーロラだ。


「綺麗ですね」

「ああ」


七色にきらめくオーロラは、ほんのすこし手を伸ばせば届きそうな距離にまで迫っている。

ひとりが手を伸ばし、そして空を切った。


「やっぱりとれませんね」

「伝説は伝説か」


かつて勇者はこのオーロラを切り取ってマントにしたそうだ。

そのマントはドラゴンの炎ですら防いだという。


「まあ、でも、見れてよかった」

「そうですね」


オーロラの降り注ぐ下で、三人はコーヒーを片手にいままでの人生やこれからについて談笑し、夜を明かした。

そして、日の出とともにここを発った。


男らが去った後、


「行ったね」

「人が訪ねてくるのは何年ぶりかな?」

「さあ? 結構経つと思うけど」

「ねえねえ。あの人たちオーロラをとりに来たみたいだけど、どうして虹のはさみを使わないんだろ?」

「おっちょこちょいで忘れちゃったんじゃないか?」

「僕らにも気づかなかったよね」

「頭触られたときはバレたと思ったけどな」


町はにぎわい出す。


「雪団子できたよー」

「はーい」


伝説はいまもなお息づいている。

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