第14話 秘剣

ドラゴンの硬いうろこを切り落とすという名剣ドラゴンスレイヤー。

冒険者あこがれの剣であり、好事家マニア垂涎すいぜんの的でもある。


「サイクロプスだ!」

「先生! お願いします!」


迷いの森で戦う冒険者たちを割って、ひとりの剣士が前に出る。

その背には名剣ドラゴンスレイヤー。数多の冒険を潜り抜けた達人の証である。

先生と呼ばれる剣士はサイクロプスというひとつ目の巨人を相手に一歩も引かず、それどころか地面を蹴って懐へ飛びこむと、


「双極一貫・崩拳!」


みぞおちに拳を叩き込み、一撃で倒してしまった。


「お見事です!」


周りの冒険者らが一斉に拍手するが、


「容易きこと……」


この程度で騒ぐなと、止めさせた。


戦闘終了。ただちに負傷者の治療や消費したポーションなどの備品を補充する。

慌ただしいなか、若い冒険者が先生に駆け寄り、


「どうして先生は剣を抜かないのですか?」


純粋な目をして訊ねた。

さきほどの戦闘でもそうだが、このパーティでクエストに挑む中、先生は一度として剣を抜いていない。


「私の剣は強敵を斬るためにある……」

「サイクロプス程度では剣を抜くまでもないということですか!」


感服した冒険者はその目を尊敬のまなざしに変え、一層うやうやしく接するのであった。


それからしばらくして今度は、


「ドラゴンだ!」


赤いドラゴンがあらわれた。


「先生に道を開けろ!」


冒険者らは一斉に退いて、森の木々に隠れる。

ドラゴンは強敵である。その戦闘力は王国の鍛え上げられた兵士千人より高いとされる。ゆえにドラゴンを討伐した者は賞賛され、人々から畏敬の念を向けられるのである。


(いよいよ先生が剣を抜くぞ!)


名は体をあらわす。ドラゴンを狩るための剣こそドラゴンスレイヤー。

皆が固唾を飲んで見守る中、先生は悠然とドラゴンの前に仁王立ちし、


「かかってきなさい」


挑発するように手招きする。

怒るドラゴンは大きく息を吸い込み、渾身のブレスを放つ。

押し寄せる火炎が先生を呑み込み、辺り一帯を火の海と化した。


「そ、そんな……先生!」


冒険者らに動揺が走る。が、


「屠龍・活殺気道絞め!」


燃え盛る炎から、先生はビュンッと飛び出してドラゴンの首に飛びつくと、そのまま気管を絞め上げて窒息させてしまった。


「さすが先生!」


これには拍手喝采、賞賛のあめあられである。


「ドラゴンを素手で倒すなんて……」「どんな古の英雄も先生の強さの前ではかすんでしまいます!」「ああ、私が吟遊詩人なら素晴らしい曲を書くのに……」


夜。先生は特別に割り当てられたひとり用のテントで剣を降ろし、ほっと胸をなでおろした。


「なんとかなったか」


先生には秘密がある。それは、いままでこうやって出し惜しみをし続けた結果、剣術より体術に優れるようになってしまったことだ。


「もう剣はいらないんだけどなあ……」


ドラゴンスレイヤーは持っているだけで箔がつく。冒険者ギルドでは特別扱いだし、王宮にいってももてなしてくれる。


先生は今日も重いドラゴンスレイヤーを背負って旅を続ける。

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