第13話 最速の男
――最速、集う。
今日は待ちに待った年一度、もっとも”早い”冒険者を決める大会が開かれる日。
ルールは簡単。陸上を走破すること。ただ、それだけ。
掛け値なし、地上最速を決める大会だ。
この日のために最高の馬に、最高の訓練を積み、最高の準備をしてきた。
「行こう……最速が待っている」
俺は愛馬にまたがり、夜明けの牧場を駆ける。
会場は祭りになっていた。
乗馬レースと銘打たれているが、乗り物はなんでもいい。ロバやダチョウ、果てには人間にはみを噛ませ、馬車をひかせている女王様気取りのバカもいる。
(……醒めちまうぜ……俺の夢が……)
俺たちの走りは見世物じゃない。本物なんだ!
熱気に包まれる会場。俺はそこにいるクソッタレどもにつばを吐いて別れをし、
決戦の舞台で身を焦がしながら静かにその時を待った。
そして正午。戦いの火ぶたが切って落とされる。
参加者はおよそ二百人。魔法使いが打ち上げた花火が爆発するのに合わせて一斉にスタートを切る。
「やあ。君はずいぶんと良い馬に乗っているね」
開始早々、キザな男が隣につく。
「僕のサラブレッドと比べれば毛並みも体格も良くないけど、まあまあだよ」
笑う男の鼻っ柱に拳を見舞い、戦場を駆ける。そう俺は戦士!
ここはルール無用のバトルフィールド!
(……人馬一体……ふたりで最速なんだ……!)
愛馬がいななく。俺たちはふたりで最速をとりにいく。
平原が終わると森に入る。
張り出した根。突き出た枝。暗い森の視界は絶えず不良。
(だが、そんなのは関係ねえ……俺たちの目には栄冠がはっきりと見えている!)
愛馬の呼吸にあわせて手綱をたぐり、水が流れるように木々の間をぬっていく。
しかし、そんな俺たちの走りについてくる奴がいる。
フェンリル。そう名付けられた狼の背に小さな女の子。
「ちょっと邪魔なんだけど!」
小回りの利くフェンリルはこの森で最速! だが俺たちに道を譲る気はない!!
(……この道は俺たちのVictory road…… これだけは誰にも譲れねえ……!!)
フェンリルの弱点はその車高。
落ち葉の厚く堆積したところを踏み抜き、後ろ足で跳ね上げる。
視界を塞がれたフェンリルはそのまま大木とランデブーして消えた。
いよいよ大詰め。下り坂。俺たちの前にはひとりの女。
大会十連覇。不敗神話を誇るチャンピオン! 愛馬は白く気高きユニコーン!!
華麗な手綱さばきと体重移動でつづら折りのコーナーをきっちり攻めている。
ここにきて最高のバトル。気持ちが加速していく……!
(穢れを知らぬチャンピオン…… それも今日までだ…… ぶちぬかせてもらうぜ…… 俺たちのHeat Soulで!)
女のケツを追いかけるのは嫌いじゃない。
だが、今日は勝利の女神を待たせている!
俺はヘアピンコーナーを前に加速し、チャンピオンを内側から差す。
「バカッ、その速さでは曲がれない……!」
悲鳴があがる。と同時に手綱を引き、愛馬を横へ滑らせた。
「四足ドリフトだとっ……!」
この時のために特注した
「だが、それでも曲がり切れはしない!」
チャンピオンの言うとおり、これだけじゃ届かない。
「いくぞ! 相棒っ!!」
俺は愛馬の前足を溝にひっかけてインをキープしつつ、遠心力で曲げていく。
「ありえない……」
あ然とする元チャンピオンを置き去りに、俺たちはコーナーにタッチしてターンし、そのままゴールへと飛びこんだ。
あの日、俺たちは最速だったんだ……。
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