第12話 旅立ち

あるところに冒険者の男と村娘がいました。

男は言いました。

「今度の冒険が終わったら結婚しよう」

娘は答えました。

「はい。お待ちしております」


それから一年経ちましたが、男は戻ってきませんでした。

娘は思いました。

(きっと私は捨てられたんだ)

毎日泣いて、泣いて、泣いて暮らしました。そしてある日、

(もしかしたらなにか帰れない事情があるのかも。せめて一目会いたい)

居ても立っても居られず、男を迎えに行くことにしました。


街につきました。

村とは違い、色んな人々がいます。

美しい人、知的な人、気立てのよさそうな人。

娘は思いました。

(あの人はきっと私より良い人を見つけたんだ)

そう思うと目から涙があふれます。

でも街の人に聞くと、男はここから北へ向かったようです。

娘は安心し、北へ向かいました。


北の港町へつきました。

山中の村とは違い、いろんなものが市にならんでいます。

おいしそうな魚介、めずらしい舶来品、聞いたこともない場所の地図。

娘は思いました。

(あの人はきっと田舎の村に飽きたんだ)

自分も飽きられたのかと思うと涙があふれます。

でも町の人に聞くと、男は船に乗るために立ち寄っただけのようです。

娘は安心し、船に乗って西へ向かいました。


西の大陸につきました。

村のある大陸と違い、古い遺跡がたくさんあります。

空へ落ちる塔。湖にだけ映る城。月をつなぐ錨。

娘は思いました。

(あの人はきっと冒険に夢中なんだ)

そうして約束を忘れられたのかと思うと涙があふれます。

でも冒険者に聞くと、男はそれらに目もくれず、都へ向かったようです。

娘は安心し、都へ向かいました。


都につきました。

村とは違い、人々は沈んだ顔をしています。

近くにドラゴンがあらわれ、付近の街を襲っているようです。

娘は思いました。

(あの人はきっとドラゴン退治に出かけたに違いない)

人の良い男のことを思うと心配で涙があふれます。

はたしてこの国の王に訊ねると、その通りだと言います。

娘は王が止めるのも聞かず、男のあとを追いました。


ドラゴンの住む山につきました。

村の森とは違い、ドラゴンを恐れて魔物はいません。

切り立った尾根を登っていくと男をみつけました。

傍らには胸に剣の突き立てられたドラゴンも横たわっています。

娘は駆け寄って、男を抱きかかえました。

男は死んでいました。悲しくて涙があふれます。

でも男はもうどこにも行きません。

娘は安心し、都へ戻りました。


都では男のために人々が祈りを捧げています。

それを見た娘は、また涙があふれ出すのでした。




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