第9話 友情

滅びた都市の闘技場。三人の冒険者がオーガと戦っている。


剣と盾を打ちつけて鳴らす戦いの銅鑼ドラム。砂煙をくぐり駆け抜ける軽業。

火花を散らす魔法が天井を彩る星となってまたたく。


大地を揺るがすオーガの一撃!

ファイターは腰を引いて受け流し、たたらを踏んだところへシーフがナイフを撃ちこみ、生じた隙にメイジが渾身の魔法を見舞う。


「よっしゃ!」


オーガは崩れ落ち、轟音を立てて地面へ突っ伏した。


「こんなもんだな」


と、地響きとともに壁がくずれ、


「なんだこれは?」


隠れた穴があらわになる。

三人は相談して、慎重に中へ。

しばらくして、王宮のような荘厳な建物へでた。


「これは……ダンジョン!」

「こんなのがあるなんて聞いてないぞ」


三人は顔を見合わせる。


「まさか未踏のダンジョンか?」

「そうなれば中にはお宝がまだ……」


ファイターとメイジはゴクリと唾をのみこんだ。

コホン、とシーフが咳払いする。


「こういうときは一旦ギルドに戻って報告する決まりだろ? なにがあるかわかったもんじゃないからな」

「まあ、そうだな」


冒険者魂がうずくものの、ぐっと堪えてひとまず引き上げることにした。


少し道を戻ったところで、


「あいたたた……」

「どうした?」

「お腹の調子が」


突然、シーフが腹を押さえうずくまった。


「すまん。トイレだ。ふたりは先に行ってくれ」

「いやいや、ひとりになるのはまずい。待っているからあっちでしてこい」


ファイターは道のわきのくぼみを指した。が、


「いや、恥ずかしいから。ちょっと戻ってしてくる」


シーフは来た道を引き返そうとする。


「待て。荷物は邪魔だろ。置いて行けよ」

「え? いや、これは俺のだから」

「盗ったりしねえよ」


誤魔化すように笑うシーフをファイターとメイジはいぶかしんだ。


「……まさかお前。抜け駆けする気じゃないよな?」


わなわな震えるシーフ。


「バカ野郎。俺がそんな真似するかよ。ほんと傷つくわ」


そう言って道の先を指し、


「あ、コボルト!」


ふたりが振り返った瞬間を見計らって走り出した。


「待て、この野郎!」


遅れてふたりは後を追う。


「……出遅れた」


ダンジョンの扉の前。ファイターとメイジはぜえぜえ、息を切らしている。


「さすがに、素早さでは……。シーフに勝てないか」

「はあ、はあ……。どうします?」


すでにシーフは中だ。


「俺たちも行くしかない」

「ええ。放っておけませんからね」


ひとり占めは許さない! ふたりも扉から中へ。そこは、


「これは……!?」


美しい大理石の彫刻が並ぶ回廊。金銀、宝石に彩られた調度品の数々。そして、


「まさか七曜の剣!?」

「こっちには賢者の杖がありますよ!」


宝箱には一級の装備品が入っている。


「間違いない。人跡未踏のダンジョンだ。それもかなり上等な」

「入口でこの分なら、奥は……」


長い通路の先には本殿らしき巨大な建物が見える。

ふたりは吸い込まれるように歩き出した。


中ほどまで進んだところで、


「わあーーーーーー」


正面からシーフが走って来る。


「どうした?」


目を凝らすと後ろにスケルトンの群れが。


「かかったな。ハイド!」


と、シーフはスキルを使い姿を隠した。目標を失った群れはそのまま目についたふたりへ襲い掛かる。


「クソッ、モンスタートレインか!」

「また古典的な手を……」

「俺たちのスキルじゃ逃げられない。戦うぞ」


激闘の末、なんとか処理した。


「あの野郎。本気で俺たちを潰す気だ」

「これは、負けられませんね」


その後もシーフの妨害は続いたが、ふたりは協力して先へ進んでいった。


そして、いよいよダンジョンの最奥、ドーム状の建物へたどりついた。


「開けるぞ」


大きな扉を押し開けると中では、


「あれは巨人族!」


人の何倍もあろうかという筋骨隆々としたモンスターとシーフが対峙している。


「馬鹿な奴だ。シーフがひとりで巨人に勝てるもんか!」

「いや、あれを見てください!」


シーフの足元にはなにやら白紙に汚い字の書かれたスクロールが置かれている。


「あの上にいる限り、巨人は攻撃できません!」

「あの野郎、あんなレアアイテムを使いやがって」

「これだけのダンジョンなら十分回収できるとふんだのでしょう」


ふたりが悔しがる間にも、巨人は弱っていく。


「どうする? このままじゃあ手柄をとられちまう」

「わたしに考えがあります」


そう言うと、メイジは魔法を唱え、


「ハリト!」


火の玉を飛ばし、足元のスクロールを燃やしてしまった。


「なにしやがる!」


シーフが気をとられた一瞬、


「へぶっ!!」


巨人の鉄拳が腹にめりこみ、壁まで転がって気を失った。


「ざまあみやがれ!!」


ファイターは大声で笑い、


「よしっ。あとは俺に任せろ。喰らえ、流し切り!!」


弱った巨人にとどめを刺した。


「さて、それじゃあお宝をいただくとするか!」


揚々とファイターは奥にある大きな宝箱の前へ。と、肩をメイジが叩く。


「どうした?」

「カティノ!」

「き、きさま……」


メイジはファイターを魔法で眠らせ、


「ふふふ。これで宝は私のもの……」


宝箱を開けた。そこには、


 『ここまでいくつもの困難を越えてきた冒険者よ。おめでとう。

  君たちはいま、すばらしい宝を手にした。それは友情だ!』


と、書かれた紙が入っていた。

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