第8話 詐術
華やかな王宮でもっとも日の届かないところ。薄暗い宝物庫で王様がため息をついた。
「このままではまずいのじゃ」
先代のころにはあふれんばかりの金銀財宝に彩られた部屋が、いまやがらんどうとしている。
「王様……」
「わかっておる」
原因は十年前からおこなっている
近隣諸国に先んじて勇者を輩出しようと始めた王様肝いりの事業で、冒険者として旅に出る若者に一律の出立金を出すといったものだ。
この出立金を目当てに国中の若者が王宮へ押し寄せ、そして国を出ていった。
結果、国庫は底を突き、街には老人ばかりが残った。
「わかっておるが、それでも平和のため、勇者の誕生は人類の悲願なのじゃ」
「国が傾いては、元も子もありません」
王様はかしずく大臣に向き直る。
「そうじゃが、いまさら事業を中止したとしてどうなる?」
出ていった若者も金もいまさら戻りやしないだろう。
「明日生まれるかもしれない勇者が、貧困を理由にその
「私に良い案があります」
王様は早く続きを言うよううながす。
「冒険者の中にはなにやら”こんさる”という職業の者がおり、そういった者を起用して財政を健全化した国があると聞きまする」
「そはまことか」
「はっ。かの者らは経営に長じていると。めぼしいものを
「よきにはからうのじゃ」
大臣は急ぎ執務室へ向かい、役所を通じて冒険者ギルドへ依頼を出した。
翌日。
「王様。先日話した冒険者がやって参りました」
「早いのぅ」
謁見の間。貴族のような恰好をした冒険者がうやうやしく頭を垂れている。
「くるしゅうない。おもてをあげよ」
整えられた髪。切れ長の目。自信ありげに微笑む口元。一挙手一投足に気品がみてとれる。が、装飾はいささか派手だ。
「私はクレイ・エドワード・マンキンゼーと申します。クレイとお呼びください」
「よく参ったクレイ。用向きについては聞いておるな? きたんのない意見を求めるぞ」
「では早速、私の王国再建策を献じましょう」
クレイは立ち上がり、かばんから巻物を取りだして広げた。
「まずは
「具体的には?」
「この国は人件費の
「それでは王国運営にさしさわる!」
思わず大臣が大声を発した。しかしクレイは動じない。
「
「それでは国防がおろそかになる!」
「ではお聞きしますが、彼らがいままでなにをしましたか? ここ百年、
大臣を論破し、さらに続ける。
「そうして浮いた
「そのようなことができるのか?」
王様と大臣は顔を見合わせた。
「可能です。具体的には麦をまく時期を一か月早めてください。こうすることで夏に収穫ができ、秋にも二度目の収穫ができます」
「寒冷なこの地でそのようなことをすれば、苗の成育に問題が生じるのではないか?」
「問題ありません。それどころか一度水にさらしたあと寒冷な時期に植えられた麦は、通常の麦よりも開花が早まったという
「ふむ」
堂々と論じるクレイに対し、王様も大臣も反証をもたない。
「では工芸品はどうやって増産するのじゃ?」
「簡単なことです。
「さすがにそれは……」
クレイがにらみつけると、
「ヒッ……」
大臣は
「
以上、とクレイは話を切り上げる。
「まずはどこかの地方で一年だけ
「そこまで言うのなら」
一年後。クレイの策は成功を収め、国庫は潤った。
「いかがですか王様」
「うむ。素晴らしい
そして五年後。連作によりやせた土地では収穫量が下がり、国民は飢えに苦しむ。
「なんということじゃ……」
「王様!」
大臣が息を切らして走ってきた。
「
「なぜそうなる前に知らせぬ! 急ぎ軍を向かわせるのじゃ」
「それが、
二人は顔をひきつらせた。
いつの間にかクレイはいなくなっている。
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