第2話 三店方式

街から歩いて30分。朽ち果てた石窟寺院ダンジョンから帰還した冒険者は、


「また拾っちまった」


剣を手に、ため息をついた。


百年前、魔王軍との戦いで人類軍が立てこもった寺院には、いまでも当時の遺品アイテムが眠っている。

冒険者は落とし穴にハマったものの、底に敷き詰められた竹槍が腐っていたために九死に一生を得て、さらに運良く落ちていた剣を手に入れた。


だが、ついこの間、そうして持ち帰った剣を盗品呼ばわりされ、裁判沙汰になったばかりだ。


「とりあえず、組合ギルドに相談してみるか」


組合ギルドとは冒険者ギルドのこと。冒険者向けに仕事の周旋をしたり、情報交換の場を提供している。

ダンジョンでの拾得物の扱いについて相談するにはうってつけだろう。


冒険者は剣を服でくるんで隠し、目立たぬよう通りの端を歩いて冒険者ギルドへ向かった。


大通りに大きな看板で冒険者ギルドと書かれた看板。木戸を押して中へ。

たむろするモヒカンや怪しげな魔法使いを避けるように受付へ行き、


「すみません。ダンジョンでこれ手に入れたんですけど」


ちらりと剣をみせた。応対した女性は、


「あー」


あごに人差し指をあててから、


「えっと。皆さん、そこから出て左の方に行かれます」


入ってきた木戸の左、東の方角を指さした。


「は?」


冒険者は困惑した様子で聞き返したが、困った顔で同じことを繰り返すので、ひとまずは指示されたとおり東へ向かうことにした。


冒険者ギルドから東へ行ったところに広場があり、そこではいろいろなお店がのきを連ねている。

武器、防具、薬、食糧、さらには傭兵まで。

ここではありとあらゆるものが売られている。


冒険者がキョロキョロしながら歩いていると、


「ニイチャン。こっちこっち」


怪しげな店の店主がなにやらこちらを手招きしている。


「俺?」


と指さすと、店主は大きくうなずく。


「なにか用ですか?」

「ダンジョン。行ってきたんだろ? ほら、早く出しな」


近寄ると、ひったくるようにして剣をとられた。


「ちょっと、なにするんですか!」


抗議に動じることなく、店主は片眼鏡モノクルを手にじっと剣を検めると、


「はあ~~~」


ガッカリしたように大きくため息をついた。


「大事そうにしてるから逸品かと思ったら、ただの鉄の剣じゃねえか」


ふところから商人ギルドのマークが入った鉄片を取りだして、机に放り投げる。


「銅貨20枚」

「へ?」

「だから、銅貨20枚で買い取ってやるって言ってんの!」

「いや、なに好き勝手に言ってるんですか? ってか、これなに?」


冒険者はひとつをつまんでとりあげる。


「おや? ニイチャン、初めてか?」


店主は居住まいを直して、コホンと咳払いして、


「ここは交換所。ありとあらゆる物品をギルド発行の手形と交換できるお店さ」


すきっ歯をみせて愛想よく笑ってみせた。が、


「あ~、そういうことか。ってか、だったら手形じゃなくて普通に銅貨で払ってくれない? 交換しにいくのもだるいし」


冒険者の態度に、すぐに口をへの字に曲げた。


「だったら正規の商店に持っていきな。銅貨22枚くらいで買い取ってくれるだろうぜ」

「じゃあ、そうする」


去ろうとすると袖をつかまれる。


「なに?」

「ただし、あくまで正規の品だったらの話だ。もし誰かの落とし物だったりしたらちょいと面倒なことになるぜ」

「俺がダンジョンに潜って手に入れたお宝だから問題ないでしょ」

「誰がそれを保証するんだい?」

「それは……」


困った。面倒事はもうごめんだ。

冒険者が店主へ向き直ると、


「初回サービスってことで銅貨22枚分におまけしてやるぜ」


にっこり笑った。


ここは命を賭けてダンジョンへ挑み、一攫千金を夢見る冒険者の街。

そして、そんな彼らを目当てに、今日も商売に勤しむ者たちがいる。

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