第9話
色彩が失せ、何もかもが白色の風景
カエルは体を凍てつかせ地中に眠り、ウサギは白い衣に着替える。
今日は雪が吹く寒い冬だった。
庭一面に積もった雪の中、ざくざくとそれを踏む音が響く。
そこにいるのは白い何かだ。
周囲真っ白で目を凝らさないと見えないほど風景に同化しているのは、人。
黒色など消え失せ、雪よりも白い髪と白い肌。
そして
…全身から溢れる白い闘気
千冬はこの雪の中で朝稽古をしていた。
ただひたすらに闘気を放出し、時に形を変え、動きながらでもそれを維持するのだ。
激しい動きをしようと自分の手足のように扱えるように毎日できるだけ放出して過ごしていた。
「ふぅ……やっぱ疲れるな」
当初に比べれば見違えるほどに闘気を動かせるようになった千冬。
しかしそれでもまだ上級程度のものでしかなく、戦闘力に関しては中級ぐらいしかないだろう。
「……半年ぐらいか」
家を飛び出してからだいぶ月日が経った。
その選択に後悔はしていないしここに来れたことは俺の人生で最良と言えるほどのものだ。
黒鉄家当主に身分証や戸籍を改竄してもらって新しく雪という名前をもらった。
それと法律上誘拐に該当するため両親には何も伝えてなどいないし関わってすらいないと当主は宣言している。
だから今の俺は千冬でもあるが雪でもある。
それと黒鉄ではなく『白銀』だ。
本当ならもっと男っぽい名前が良かったが、断固拒否されて仕方なくこの名前になった。
そして俺がいるここは黒鉄家の訓練施設である黒塔という場所だ。
昔はここに塔が建っていたからそう名付けられたみたいだが今は大きな平屋しかなく、ここで黒鉄の子どもたちは日々過ごし、訓練をするのだ。
「今日の飯何かな!」
「俺肉がいい!」
「な!俺も!」
生ぬるい。
ここにいる子どもの半数以上がただいるだけのボンクラどもだ。
自らの生まれに感謝もせず才能を無駄にする馬鹿ども。
そんなのとつるんで自己成長が望めるわけもなく、半年という期間ずっと一人で修行していた。
たまにバカとビッチがやって来ることもあるが。
ドタドタドタドタ!
そんなことを考えているとほら。
「ちふゆー!!!」
「千冬じゃねぇって言ってんだろ!?このばかが!」
キィィィと急ブレーキをして止まったのは二つ年上の黒鉄 優という名前の男。
当主のご子息である。
「いやおまえいつも自分のことちふゆって言ってんじゃんか」
「…………ぶん殴っていいか?」
「もう殴られてんだよぼけ!」
真顔で正論を指摘してきたためついむかっとなって手が出てしまった。
これは母との約束
俺といわない代わりに千冬と言いなさいと何度も言われ、渋々ではあるがゆびきりげんまんもした。守る理由などないが…約束を違えるのは俺のモットーに反する。
「雪って呼べ」
「ちふゆ」
「てんめこらっ!?今日もぶっとばしてやる!」
「上等だよそもん!今日は俺が勝つ!」
「やめなよ二人ともー」
「「うっせー!!」」
大人気ない?
なんとでもいえ。
売られた喧嘩は全て買い、ぶっ飛ばすのが俺流なんだ。
それが子どもだろうと関係ねぇ。
「お…おまえ!ずるいぞ!闘気をしまえ!」
「えー?闘気なしでも千冬に勝てないんだから時間は有効活用しないとな?」
俺の今できる闘気は身体強化とちょっとの硬化だ。
どちらも纏うことであるがこれがかなり強い。
闘気は魂の具現化。
魂が強くなればもっといろんな形を取れる。
矢を作ったり剣にしたり…。
それまではこの身体強化が俺の武器だ。
足に纏った闘気は一歩を踏み込めば5mの距離なら一瞬で詰めることができ、次いで瞬時に拳にも闘気を移動させる。
「ふっとべくそがきぃぃ!」
「どぅぅぅえぇぇぇ!?」
ただの掌底。
しかし7歳の体は後方へ大きく吹き飛んでいき、冬の池へと落ちた。
「勝利!」
これが今の俺の日常である。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「「ぶぇっくしょんっ!」」
「今日もきれいに吹っ飛んだねー笑える…!」
3人は毛布にくるまって食堂にいた。
優は池に落ちて寒さのあまり体を震わせ、千冬は毎朝の稽古で絶賛風邪を引いている。
それとさっきからいるこの軽い口調の子は黒鉄千紗といい、当主の兄弟の子どもだ。
「なななぁ!ななんでおまえはとと闘気を使えんだよ!ってか今も出してんじゃねぇよ」
「…………小蠅か?」
「てめぇ…!」
「そうだよー。うちにも教えて欲しいなぁ」
「…魂が超強い。以上」
嘘も真実も言ってない。
ただ強いから使える。
しかしまだ満足のいく結果ではない。
半年で身体強化と硬化できるようになったのは自分でも驚いているが、形を変えることができないのが悔しい。
何度やっても、どれだけ集中しても剣や槍、簡単な矢の形にすらならないのだ。
だから決めている期間はあと半年。
半年間の訓練でできるようにならないなら才能がなかったと諦めるつもりだ。
「今に見てろよ…お前なんかけちょんけちょんにやっつけて俺の方が上ってことを教えてやる!あと子分になれ!」
「いやだよまったく…これだから子供は嫌いなんだ」
「お前もこどもだろ!」
さっさと飯食って午後からは体力つけるために走るか。
千冬こと雪はご飯をかきこんで席を立った。
すると目前にいる二人の食器も空になっており…目を輝かせてニヤリと笑った。
「ついてくぞ」
「うちもー」
二人は漠然とではあるが雪と一緒にいれば強くなれると感じていた。
他の子は全くそういうことはないようで余所者とつるむのは意味がわからないと3人を避けているし闘気を出せる5歳児などきもち悪すぎると大人たちでさえ困っているほどだった。
「………勝手にしろ」
俺は俺で色々と考えている。
訓練は一人でできるものだから何人もいる必要はないし教えられるほど俺自身がすごくなったわけでもない。しかし、前世の記憶も含め、この二人の心には感じるのだ。
ーーー俺が見た強者達と同じ何かを
ただの勘ではあるがそれが当たることを期待している。
才能は生かすも殺すも環境次第なのだから、少なくとも他の黒鉄と一緒にいるよりは平和ボケしないだろう。
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