第7話



 さて、無断で本家に行って1週間が経った。


 勝手に将来の進める道を確定させ、太古の賛美に出場できることになったわけだが、やることは山積みだ。


 そもそもあの当主、ちと考えがやばいと思う。

 冷静に考えて8歳を世界闘技に参加させるか?

 普通しないだろう。

 どんだけ才能があっても未発達の体じゃ限度があるし勝てるわけがないでしょと。

 まぁあくまで一般的にはだけど。


「とりあえずの目的はこれだな」


 俺は脳内の枷を意識の中で斬った。


 するとすぐに右目の周囲にうっすらと白いオーラのようなものが出現した。

 言葉を今風にするとこれが闘気というものだった。

 闘気はその者の魂を具現化すると言われている。そしてその魂がより強ければ強いほどこの闘気は大きく、濃密になっていくのだ。

 そして魂の強度は魔物を倒した時に上がる。

 それと、死地に立った時だ。


 前世の魂の強度が引き継がれた今世の俺は化け物じみた闘気を4歳で出すことができる。

 しかし、ただ具現化するのでは何の効果も持たないし意味のないものだ。

 闘気は変形させたり体内を移動させることができて初めてスタートラインに立てるのだ。


 そして闘気の操作を前世の俺はほぼできなかった。

 モンスターを殺しまくり、死地との隣り合わせで闘気を出せるところまではいったが、努力をする前に死んでしまった。


「だから初心者だ。まじでむかつくほどうごかねぇ」


 右目に存在する白い闘気は前世と同じ色だが、人によってそれは様々だ。

 俺はこの色を気に入っているが、黒鉄家に生まれた身としては少し気まずかった。

 代々黒鉄家の闘気は皆、黒色なのだ。

 真逆の色をした俺はやはり前世の魂に色々と引っ張られているのかもしれない。


 さて、闘気をこれからの修練に選んだのにはいくつか理由がある。


 さっきも言ったが子供の体では倍近く違う歳の子に力で勝てない。

 なら前世で使っていた剣技も4年後では無意味なのだ。

 体を鍛えないで強くなるにはアドバンテージ の闘気を操れるようにして身体強化をするしかないわけだ。

 もちろん少しは体も鍛えようとは思っているが子供の頃からの過度なトレーニングはかえって怪我をする可能性もあるためできることはほとんどない。最速を目指すにもこの闘気のマスターは必須なため絶対に譲れないものだ。


 そして二つ目の理由は、家から出れないからだった。


 母のねっとり笑顔が脳裏に浮かぶ。

 笑っているのに笑っていない顔…あれは死を体験した俺でも少し怖かった。


 特に何を言われるでもなく…


『千冬は頭がいいからわかるよね?』


 と言われ、まぁ、そりゃ4歳の子が勝手にいなくなったら親の心労というのは計り知れないだろう。

 それに怒っていることもわかる。

 俺が親だったらブチギレる。


『外出禁止』


『ぇ?』


 お転婆娘と言われたこの俺が外出禁止だと?


『いいわよね?』



 物凄い圧…それこそ闘気を出しているかのような圧迫感と脅迫まがいの目に俺は負けた。

 だから部屋でできることをする以外に方法はない。


 もし仮に母が怒っていなければ次の日から初級ダンジョンの低層で雑魚モンスターを狩ろうと思ってたが、まぁ、仮にだったしな。

 無理だってわかってたから。


「一年はいい子を演じ、ある程度闘気を動かせるようになって…2年目で目を盗んでダンジョンに…3年目は戦闘勘を取り戻すために中級に行って…あとは闘気の持続力や効力を高めたり…スキルも欲しいけどなぁ…」


 願わくば世界闘技までにスキルを一つ獲得したい。


 スキルとは、ある一定の条件をクリアした時やスキルスクロールと呼ばれるもので入手できる神秘の力だ。

 火や水を操ったり、人の感情がわかるものや動物と話せるものなんかもある。

 そしてスキルにも良し悪しがあり、単体で強力なスキルや組み合わせで輝くものもある。


 ただ入手には大金もしくは実力、運が必要になる。

 強すぎる超級以上のスキルは市場に出回ることがほとんどないためダンジョンでの入手が必須となるからだ。


「とりあえずこの闘気を……ふぬぬぬぬッ!!」


 気張ったところで目のそれはどこにも動かないし逆に脱力をしてみても変わらない。

 闘気の修練は一朝一夕でできるものではなく、動かせるようになるのは天才でも1ヶ月、凡人なら一年かかる人もいると言う。

 ちなみに世界レコードは7日だそう。


 前世の俺なら半年ぐらいかかりそうなものだが、今世は黒鉄の血を引いているからもしかしたら早い段階で習得できるかもしれない。

 それに子どもの呑み込みや成長は恐ろしく早いためどうなるかはわからないのだ。


「それにもう少しでゴールデンエイジだしな。めちゃくちゃ体動かしてみるか」


 ゴールデンエイジとは身体能力や運動能力が著しく発達する期間。

 具体的には5歳から12歳で一生に一度の貴重な時期なのだ。

 この時期にいろいろな運動をするかどうかで人の運動神経は変わってくる。


「普通は鬼ごっことか缶蹴り、けんけんぱとかをするみたいだけど、どうすっかな」


 走る、蹴る、投げるは確定で毎日するつもりだ。それと反射神経も鍛えたいし機敏な動きができるようにラダートレーニングをするのもいいかもしれない。

 あと動体視力もだ。

 魂の強度が上がっていけば比例するように全ての能力が上がっていく。しかしそれは基礎あってのこと。

 基礎が疎かになっていればいくら強度が上がろうとそれは宝の持ち腐れになってしまう。

 最速を目指すなら足の鍛錬も必要だがスピードに追いつける思考と視力も必要だから。


 体を無理なく鍛え、運動能力と神経系の向上を目指す!

 あ、それとあれだ、強くなるのには関係ないが、両親の説得もしなければいけない。


 分家ながら探索者の才能に優れていると思われている俺は本家の当主から直々にお誘いがあった。


 将来探索者を見据えるならうちで訓練をしないかと。

 それは願ってもないことで黒鉄家には独自の修行法があり、それを行ったものは一皮も二皮も剥けるという。


 俺は鬼のような母に言ったんだ。

 本家で探索者目指すことにしたと。

 もちろん俺の夢だから誰に止められようがどうせ行くことになる。

 それが早ければ早いほど最速に近づくわけだから、幼稚園には通わない、探索者に弟子入りすると伝えたらツノ生える幻覚が見えた。



『寝言は寝て言いなさい』


 4歳に言う言葉じゃねぇ。





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