第5話




「なぁるい」


「…お前なんでそんな生意気なんだ?常識しらねぇのか?」


「知ってるけどいいじゃん」


 俺は今世では破滅級探索者になるのだ。

 つまり世界一!

 むしろ名前を呼んでもらえることをありがたく思え!


「…何ない胸はってんのよ」


「…別になくていいし」


 絶対に大きくなるんじゃねぇぞと念を入れるがどうしてか母の大きな乳房を思い出す。

 もし遺伝してしまったら…最速には邪魔なものになる。


「え?なにー?負け惜しみですかぁ?そんなに私の羨ましいの?えー?ちょっとなら触っても…いいよ♡」


 るなはたしか男性人気4位にランクインしたことがある可愛い系探索者だ。

 まぁその実戦闘スタイルはガチガチの近接戦で血を浴びて笑っているサイコパスだが世の男どもがこの姿を見れば心打たれるだろう。

 しかし俺には響かない。


 心打たれずお前のぱいを打ってやろう。



 バチィ!


「いたッ!ほんっと生意気ね!」


 知らん。

 中身ガサツな男なんだから許せ。


「んで?この際お前を子どもとして扱わないが、なんで客として入りたかったんだ?」


「それだよ!るい!」


「なんだ?」


「千冬を宝物庫に案内してくれ!」


 満面の笑みでそう言い切る千冬は将来美少女になる器を持っている。

 しかし内心は欲深い男だった。


(どんな宝があるかなぁ!秘伝書もいっぱいあるといいなぁ!いい短剣あるかなぁ!)


「何言ってんだお前。入れるわけねぇだろ」


「……………………ぇ?」


「当たり前でしょ?いくら客人と言ってもそれは黒鉄が名を貸す、つまり後ろ盾になってあげることを言うのよ?宝物庫なんて重要な場所に誰が生意気なやつを連れてくのよ」


「生意気やめるから連れてって」


「そういうことでもないわ…!たとえ分家でもそこは無理なの!」


 んなばかな!

 情報と違う!

 前世では客として迎えられれば宝物庫の宝を持っていける可能性があるって言ってたのに!

 100万払って得た情報だぞ!あの情報屋嘘ついたなぁ!!!

 あいつぜってぇ次あったらボコす!

 ってかそれならここにいても意味ねぇじゃん。

 あっでもまだチャンスはあるか。


「なぁ、宝物庫ってどこにある?」


「「…………盗むつもりだろ(でしょ)」」


「そんなわけないじゃん、なぁ?子どもが前科持ちにならないからってそんなことしねぇようん」


「「絶対に教えない」」


 くそ。

 だめかぁ。

 ならもういる意味ないしなぁ。



「……かえろ」


「「……え?」」


「来た意味ねぇし帰る」


 とんだ短い旅だった。

 勝手にいなくなった俺を母は探しているはずだし、帰ったら二人にめっぽう怒られることは確実だ。

 こんなのは怒られ損だ。

 最悪だ。


「待て待て待て待て!?お前客としてきたんだろ!?」


「いや宝物庫に用があって来たんだよ」


「いやいやいやいや意味わかんないし!え!?支援してもらわなくていいの!?」


「いらね。じゃな」


「「あっ!…………」」


(早く帰んねぇと!)


 駆け足で廊下を戻っていく千冬をみて残された二人は思う。


「…親父に話すか?」


「まぁ…最近めぼしい人いなかったし教えるのはありかな?でも…逃したってのは伏せようね」


「ああ、そうだな」


 昨今では黒鉄グループもそうだが世界に強い人間が生まれてこない。

 超級は例年よりも多いがその上の絶級がここ5年ほど一人も現れていないのだ。


 絶級になるためには協会が出す試練をクリアする必要がある。

 そしてそれは絶級ダンジョンで2時間生存するというものだった。

 どんな方法でもいい。

 隠れていいし戦っても逃げてもいい。

 死ななければなんでもいい。

 しかしそれができないから絶級なのだ。


「るい飲み物ちょーだい」


「はいよ」


「でもあの子すごいね?あの歳で闘気出せるって上級の才能がもう備わってるってことでしょ?」


「ああ、もしかしたら8人目になるかもな」


「………だよねー、あ〜あ、生意気じゃなければなぁ」


 二人は会議がある部屋へと歩いていく。

 今日は本家、分家が集まってのダンジョン会議だ。

 黒鉄グループの売り上げやどのダンジョンを商業化しているのかなど探索者の情報交換が行われる年に一度の場だ。

 もちろん超級探索者の二人もこの会議に参加し次の攻略するダンジョンについて話す予定だ。


 戸を開き中へと入る。


「「おはようございま……ぶぅぅぅぅッ!?」」


 二人は見た。


 当主…父のあぐらの上に座る千冬を。

 俯いてニヤニヤ顔をしたその顔を。


 そして2人を見た千冬はこう言った。


「あ!千冬をいじめた二人だよ!」


 と。


「そうかそうか…るい…るな…」


「「はぃぃぃ…」」


「覚悟…できてんだろうなぁ…」


 絶級探索者のオーラはとてつもなく…それが向けられた二人は涙目だった。



((こんのクソガキィィィ!?))


(なんだこのおっさんんんん!?!?)


 千冬は千冬でいきなり溢れた莫大な闘気にびっくりしていた。



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