第4話
ここは日本で一番安全と言われる東京都。
ダンジョンの数も世界有数で多い場所ではあるがその分、強い探索者が世界中から集まっている。
街を歩けば武装した探索者たちが多く見られ、なりたい職業ランキング1位の探索者はそこら中からファンの声が上がっていた。
しかしそんな周囲に目もくれずある一点を目指す子どもがいた。
白髪混じりの黒い髪を肩口まで伸ばした女の子
、千冬だ。
彼女は手を上げて横断歩道を渡る。
(えへへ…とうとうきたぜこの時が!)
千冬は両親の反対を押し切り…というか内緒で一人東京に出てきていた。
目指すのはもちろん本家だ。
特段何をするわけでもないが、とりあえず宝物庫に行きたい。
(うん。別に何をするとかはない。ただちょっと宝物庫に行きたいだけ。散歩だ)
黒鉄家には莫大な財宝や溜め込んでる武器、防具が沢山あり、それが本家にあると前世で見たことがある。
そして、そこには俺が欲しいものもある。
「〜〜♪」
今からそれが手に入ると思うと頬が緩む。
(いやぁ…分家最高…)
誰が諦めるもんか。
せっかく手にした第二の人生だ。
前世よりもずっといい環境…逃すわけがない。
強くなりたくてもその情報を手に入れるのにすら時間がかかる。
探索者は基本、情報を売らない。
それが自分のスキルなら尚更入手方法などは教えてくれないためお金も実力もない俺は自ら試すしかなかった。
そして集めた情報の数々は今世でこそ発揮される。
「まずは秘伝の書をげっとするぞー!」
そう意気込み小さな足で前へと進んでいくのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「入れねぇ!?!?なんでだおい!!?」
広大な土地とそれを囲む高い塀、正面の門前には門番が二人いた。
どちらも強者。
子どもの身でもわかる、その逞しい覇気に千冬は少し興奮していた。
「子どもの来るところじゃないよ」
「ここは黒鉄総本山だぞ。帰れ帰れ」
まぁ、この反応も納得だ。
たとえ分家でも子供が一人で入ろうとすればそれは止められるだろう。
しかし入れない可能性が高いのもわかっていた。
だから黒鉄流を試す。
黒鉄流とは、『力を示すこと』
どんな力でもいい。
示した者は客人としてここに出入りできるようになる。
そして目前にいるこの二人が今回の鍵だ。
超級探索者
黒鉄 るなと黒鉄 るい
前世でも有名だった双子だ。
もちろん俺だって知ってる。
そういえば俺が生まれたのは死んでから2年後みたいだった。
だから前線組の探索者は変わっていないし新たに台頭してきたやつらもあまりいないわけで、それは黒鉄家も同じはず。
まだ次世代の超級以上が頭角を現していないということは俺にもチャンスがあるということだ。
では何を示すか。
4歳の魔力すらない体で強さの証明をどうする?
戦ってもそれは強さの証明どころかただの無謀なバカだと思われるだろう。
なら答えは簡単だ。
今から聞き出せばいい。
「『客』として入りたい」
「「!?!?!?」」
二人は何度も聞いているだろう言葉。
だが、その言葉が子どもの口から出てくるなど誰が想像していただろう。
それにこんな小さな子がその意味を理解していっているのだとしたら……奇妙でしかなかった。
「…おまえ理解してんのか?」
「…うん、俺を試してくれ」
るいは目を疑った。
その真剣な眼差しと知性あふれる瞳。
会って数分だが目前にいるのは子どもに化けた何かではないのかと。
「…試す…試すねぇ…お前にその価値があるか?」
「ちょっと…こども相手に何言ってるの!」
二人は何やら言い争いをしていたが俺には関係なかった。
俺はここに入って秘伝書を読みたいんだ。
憧れた高みに行きたい。
もう惨めな思いはしたくない。
敵を前に震えたりしたくない。
あいつらをぶっ殺したい。
強く、最速になるためなら…
ーーー命の一つぐらいベットしてやるよ
「…こいつ…」
「…何この子…」
千冬の瞳には狂気染みた強い光が宿っていた。
それが発するのは、闘気
・・・子供が闘気を放っている
それは信じられない出来事であり不気味なことだった。
何がどうしたら子どもがこうなるのか二人にはわからない。
どんな環境で育てば上級探索者が会得できる闘気を発せれるのか。
たとえそれが目からしか発していないとしてもこの子どもを逃すのは勿体無いと二人の天秤が傾いた。
「おまえ、名前は」
「黒鉄……黒鉄 千冬」
「そうか…分家にこんなバケモンがいるとは…着いて来い」
「ぇ?いいの?まだ何も試してないけど…?」
「あははは……千冬ちゃんは入りたくないの?」
いやまぁ入れるなら入るけどさ…ちょっと覚悟してたからこれでいいもんかって思うじゃん。
ってか
「ちゃん付けすんなおばさん」
「おばっ…私はまだぴちぴちの18歳ですぅ!なぁにぃ?口の悪い聞き方するなら入れないわよぉ?」
「お姉さん」
「おい!早く行くぞ」
「「…はーい」」
こうして千冬は目的まで後一歩のところまで来たのだった。
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