第3話
転生してから4年が経った。
子供の成長というのはとてつもなく早くみるみるうちに視線が高くなっていく。
クリームパンのような腕もだいぶ細く綺麗になり、髪も肩口まで伸びた。
「……伸ばしてねんだよくそっ」
高く可愛らしい声で暴言を吐くのはTS転生した野蛮人である黒鉄 千冬。
やはりあれから四年、お風呂に入る時に幾度も探したが体のどこにも見つからなかった。
「はぁ…さすがにどんだけ探してもこればっかりは努力じゃ生えねぇ。くそぉ…どこのどいつだ俺を女にしたのは!」
将来に不安しかない。
女性は男性に比べて筋肉が劣るし脂肪が多い。
思春期を迎えれば胸も大きくなっていく可能性があるし何より、うちの両親が物騒なことを一切望んでいない。
「女の子はね?綺麗になって素敵な男の子と結ばれるのがいちばんの幸せなんだよ?」
いつか母と父がニコニコ笑顔で言っていた言葉。
「黒鉄家だろぉが!脳内お花畑どもめ!」
そう悪態を吐く千冬だがそれも仕方のないことだった。
千冬は生まれた当初、黒鉄という苗字に心底喜んだが、実は生まれたここは黒鉄本家ではなく分家だったのだ。
本家は探索者を主に輩出している戦闘狂一族だが分家は探索者協会の職員に多かった。
つまり俺は協会職員へのエスカレーターに生まれた時点で乗っているのである。
余談だが俺が初めて発した言葉を聞いた温厚な父は気絶したぐらいだ。
その日はずっとカマキリと妄想で模擬戦をしていた。
あの日の光景は忘れたくとも忘れられないほどに強烈な恐怖として残っている。
そして妄想でも首を両断され、そのたびにゲロを吐きそうになるぐらいだった。
何戦やっても一撃目でゲームオーバー。
そりゃ赤ちゃんといえどストレスは溜まる。
それにこの夢や妄想をするたびに生えてくる髪が白くなっていくのだ。
イライラするに決まってる。
「こりょす」
どたっ…
「ぁ…」
ってな感じでそれぐらい物騒なことには耐性のない父である。
というか過保護すぎてうざい。
どこへ行くにもついてくるし未だに寝る部屋は同じだしすぐ抱っこしたがるし。
娘が可愛いのはわからなくもないが中身男だぞ馬鹿野郎。
「まぁ…計画に支障はないけどな」
最速という目的は絶対に叶える。
もうある程度プランは立ててあるが、そのための障害としてまずは両親をどうにかして引き剥がさないといけないわけだ。
だがそれもどうにかできる可能性がある。
「くふふふ…みてろよぉ!」
どたっ
「あ…」
醜悪な笑みを浮かべていたからか汚い言葉遣いをしていたからか母が倒れた。
(大丈夫かこの家族…)
そして時間が経ち、その日の夜、
「おい…じゃない…えっと話がある…あります」
夕食を食べた後、ソファで寛ぐ二人に話しかけた。
「どうしたんだい?今日はパパとおねんねするかい?」
「するわけ………しない」
「じゃぁママとしようね?」
「ままとはするけど……今度本家に行くんでしょ?本家は強い人がいっぱいいるんでしょ?」
「え?あぁ、そうだね。つよーい人がたくさんいるね」
「うん。それって子どもも強い?」
「そうね…あの人たちは毎日訓練をしているから千冬と同じくらいの子でも強いかもね」
「うんうん!それってどれくらい強い?」
「……んー、千冬じゃ手も足も出ないんじゃないかな」
「ふふっ、でも千冬はそんなこと気にしなくていいのよ?将来は花嫁なんだから」
「…………えー?みてみたいもん」
「ははは、絶対に連れて行かないよ?」
俺の意図がわかったのか二人は顔に笑みを貼り付けてはいるものの逃がさないと言わんばかりに目の奥は笑っていなかった。
「………いいし」
子供のすること、子ども一人で何ができる。
何もできない。
そう思っているだろう。
しかし、俺には前世の記憶がある。
一人で電車もバスも乗れる。
別に連れてってもらえずとも、本家に行くことはできるのだ。
場所も知ってるしな。
「もう寝るー」
「あっじゃあぱぱと…」
「ケチだから嫌」
ずぅぅぅん………
落ち込んだ父に一瞥もくれず寝室へと立ち去った千冬だった。
そして部屋のドアを閉じて二ヒヒと笑った。
「強いやつ……楽しみだぜ…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます