フキの下からの贈り物

鈴音

フキの下に住む女の子のお話

 透き通る青い空、口と肺を凍らせる冷たい空気……季節は冬、すっかりと葉っぱを落とした木々と、まだまだ元気な松の木を眺めながら、何度目ともわからない深呼吸をする。

 この時期の空気は、いつにもまして独特というか、厳しいけれど、確かに冬を伝えてくれる優しさのようなものを感じる。

 一晩でどっさりと積もった雪は、踏むとぼふぼふと音を立てて、上質なカーペットよりもふわっと足が埋まる。楽しい。

 特に意味無く始めたこの散歩の行き先はこれから決めるとして、何か面白いものでも無いものか……と考えてたら、あった。

 とっても小さな、丸い足跡。最初は狐か猫か、はたまた鹿のものかと思ったけど、形がまん丸すぎる。

 じぃっと見つめてもわかんないので、後を追いかけることにした。

 丸い足跡を潰さないように、大きく遠回りしながら、たまに落ちてるどんぐりとか、栗とか、ナナカマドを拾い集めてみて、しばらくたった。

 足跡の向かった先には、沢山のフキが生えていた。……と言うより、枯れて雪に埋もれていた。

 なにか怪しい。絶対、なにかいる。確信を持って、私はそっと雪を掻き分けてみた。

 そしたら、雪の屋根の中に、まだ青々としたフキがあって、その中から、ぴょこっと、小さな女の子が姿を現した。

 なにかを伝えようと口をぱくぱくしながら、こっちに手を振ってくるけど、申し訳ないことに何もわからない。

 目をうるうるさせながら落ち込んで、またフキの中に引っこもうとしたので、私は手に持っていたナナカマドをそっと置いてみた。

 すると、ぱぁっと顔が明るくなって、両手いっぱいに一粒のナナカマドを抱えて飛び跳ねるから、それが凄く可愛くて、持っていた他の木の実も全部フキの近くに並べてみたら、今度はこっちを見ながら、すっごく嬉しそうに泣いてぷるぷる震え始めた。

 微笑みながら、指先で優しく撫でると、ぴたっと泣き止んで、ほっぺを緩ませて笑って。

 この寒い中、のんびり歩いてきてよかったなぁって思いながら、フキの下に見つけた小さな女の子に、別れを告げてそっとお家に帰った。

 ら、家の前に沢山の魚や、木の実や、山菜がずらりと並んでいて。

 季節外れのご馳走を鍋にして、ちょっとだけ取り分けて外に置いていたら、次の日には綺麗に平げられていた。

 その日から、あの小さな女の子と私の、のんびりとした交流が始まったのでした。

 

 

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フキの下からの贈り物 鈴音 @mesolem

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