第5話 休憩城(セーフティー・キャッスル)

「うんうん、眷属妖怪達の質が上がってきたねえ」

「あれほどの連続戦闘、戦闘を経験していない者からしてみれば、経験の畑でしょうからね。それだけでは無いと思いますが」


晴明は燐の方向に顔を向ける。晴明の言う通り、燐は眷属妖怪達に細工を施した。掲示板の者達には言っていない能力。


「能力統合、ですか」

「正確には能力複製、能力統合、能力進化の能力統括管理だけどね。正解って事にしておいてあげるよ」

「……掲示板の者達には言わないので?」

「態々手の内全て晒すバカが何処にいるのさ」


燐は掲示板の者達に心を許してなどいなかった。どんなのだ、と聞かれて素直に答えるほど、燐は真面目に育ってきてなどいなかった。


しかし自身の為に色々な事を考えてくれている事実。あの転生者達は燐を転生させた神と比べると確かな善性があるのは確認できる。


「もう少し、信頼できたら言うことにするよ」

「それはいつになりますかね」


晴明はこう言っているが、燐からしてみれば、それはすぐに来ると考えている。もう少し掲示板の者達の動向を確認しないとわからないかもしれないが、誰かの為にあそこ迄考えてくれているのだから。


「……晴明、此処に近づいて来るモンスターがいる。僕は一掃しに行くけど、晴明も一緒に行く?」

「はい、同行させてもらいます」





「斬撃、黒爆」


燐は目の前に広がっているモンスター達の大群にそう呟く。次の瞬間、モンスター達が切り刻まれ、黒色の爆炎が広がって行く。


「いやあ、多いねえ。さっきとは比にならないよ。眷属妖怪を連れて来ないで良かった」

「何を言ってるのですか……燐様ならば眷属妖怪を守りながら戦うことなど余裕でしょう」


燐はその晴明の言葉に少し顔を歪ませ、ため息を吐く。確かに眷属妖怪を守りながら戦えるとは言え、晴明が言うように余裕とは行かないだろう。圧倒的量と圧倒的質、そのどちらが勝つかと言われたら燐は後者と答える。しかしそれでも、眷属妖怪という弱者を守りながら戦うのは、百鬼の主である燐にとっても辛いのだ。


晴明は僕のことを評価しすぎだ、と呆れの思いが出て来る。


しかし出てきたのはそれだけではなかった。


(己の部下が、眷属が、此処まで評価してくれている。それも最強である晴明が、だ。ならば応えなければならないよね。これに応えないで、何が主だ!)


燐は自身が発生させていた爆炎を形作る。否、それだけでは決して足りない。燐はさらに膨大な熱量を欲する。燐は炎の妖術式を爆炎に付与させる。


燐の爆炎が形作るのは弓矢。放つのは黒く、そして激しく燃え盛る強烈な熱。


「炎妖術」


炎魔せんり


燐が発動させた妖術は猪突猛進に進む。モンスターの周りを通過するたびにモンスターが燃え、消失する。どれだけ進もうとも、『炎魔』が弾ける事は無い。


『炎魔』は時が経つたび火力が上昇する。更に激しく、一妖怪が発動したとは思えない熱量を持っていた。多くのモンスターを巻き込みながら進み、進み、進み、止まった。モンスターが集まる中心地点で一時停止し、『炎魔』は上空に立ち昇る。


ある一定の地点に昇った時、『炎魔』は爆発した。そして変化する。爆発する前とは比にならない程の熱も持った球体へと。


「飛び散れ」


燐が『炎魔』に向かってそう命令すると、球体の表面から小さな黒い球体が飛び出してきた。それは一つ、二つなど小さな数ではなく、数千個はあるだろう。『炎魔』の動きはそれだけで終わることはなく、その小さな球体はモンスター達に降り注ぐ。


球体が降り注いだ先には、爆発が生じており、範囲は直径800mと言ったところだろう。


「なんて範囲だ……膨大なんて言葉だけじゃ収まらない」


晴明は燐の妖術に対して感激の声を洩らす。燐は、平安時代の陰陽師最強である晴明にこんな事を言わせれたと思うと、喜びでいっぱいだった。しかし、戦場でただ立ち止まってはいけない。燐は少ない戦闘しかしたことがないが、そんな事はわかっていた。


「……晴明、’雑魚処理をお願いできる?少し面白そうなのがいる」

「面白そう、ですか。燐様がいうのですから、結構なのでしょうね。行ってらっしゃいませ」

「うん。……『炎魔』に引っかからないでよ?」




燐が晴明にそう言って去った後、燐は笑みを浮かべていた。何もないダンジョンの広場、そこで玉座に座っているモンスターがいた。赤いマントを羽織り、金色の王冠をかぶっており、金髪の髪を長く下ろしている。


「ふむ、客人か」


意識をしていないのだろう。敵意は一切感じないのに、魔力を圧として放出している。力の管理能力がゼロなのか、そんな思考が燐の頭の中を巡ったが、燐は即座にその考えを否定する。そうだとしたら何故このダンジョンで強者として降臨しているのだと、そんな考えに至ったからだ。


「私はサングリア。七宝典第五席の女帝だ。他の七宝典からは【星刻】と呼ばれている」


サングリアがそう自己紹介をすると、燐に掛かっている魔力の圧が増大した。突如増えた圧の重みに驚きながらも、サングリアを猛猛しく睨みつける。


「僕は雨晴燐。百鬼の主だ」

「ほう、百鬼の主か。面白そうだ、楽しませてもらえるよな?」

「ああ!もちろんさ!」

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