#49 リセット
魚に見向きもされない竿を、根気強く握り続ける俺。
女に見向きもされない竿を、いやらしく握り続ける未智さん。
あの、マジで何してんの? コイツ。
「あっ、固くなってきた」
なるよ! そりゃなるよ!
自分で触ってても固くなるんだから、美少女に触られたらガチガチよ。
むしろ、ここまで耐えたのが凄いわ。自分に勲章を授けたいね。
「この場所、お互いに顔は見えるけど、腰から下は見えないね」
飽きもせず、川で戯れる皆を見ながら呟く未智さん。
言わんとしてることはわかるんだけど、それはちょっと……。
大人の男としては、応えるべきなんだろうけど……。
「痛かったら言って」
「み、未智さん、待ってくださいよ」
おい、待てって言ってんだろ。チャックを下ろしにかかるな。
コタツの中でこっそりとヤる同人誌じゃないんだから。
「誤魔化さず、素直に答えて。これからの質問に」
「……はい」
言われなくても誤魔化さんよ、アンタの質問に関しては。
「飛鳥さんとエッチなことしたい?」
「……当たり前でしょう」
「私達とは?」
「……したいに決まってるじゃないですか」
当たり前のことを聞きよってからに。
女性は知らんけど、男なんてこんなもんよ。
「他はともかく、飛鳥さんとはいつでもヤれるよね? 貴方さえその気になれば」
「……かもしれません」
あの人すぐに日和るけど、それでも俺が本気で迫れば多分……。
いや、そもそもだな、普通の大人だったらとっくに手を出してるよな。ほぼ同棲してんだぜ?
ゴムを用意した女性にお預けを言い渡すなんて、身持ち固すぎるだろ。
「貴方は、関係が変わってしまうのを恐れている」
「……おっしゃるとおりです。飛鳥さんは勿論、皆とも友達でいられなくなるんじゃないかって……」
俺の性欲一つで人間関係崩壊なんて、考えたくもない。
快楽よりも、後悔が勝るに決まってる。俺は皆と友達でいたいんだよ。
認めないようにしてたけど、茜さんと未智さんの気持ちもなんとなく気付いてる。
茜さんの『これからは孫としても、男としても見る』って発言……そういうことなんだろ? 認めたくないから、ただの自惚れだと思い込もうとしてたけど。
未智さんも、疑似恋人だの取材だの研究だの言ってるけど、本心では……。
「今から私がすること。これは無かったことにしてあげる」
「……どういうことです?」
「これを理由に交際を迫ったり、交渉したりしない。ここだけの話にする」
……後腐れはないから、気にするなってことか。
未智さんが嘘をついていないことはわかる。それに関しては信用してる。
だが、俺が未智さんを見る目が変わってしまう……。
「あんまり我慢すると爆発するよ? いつか誰かと一線を越える」
「……平和に発散しろと?」
手の動きだけで返事する未智さん。
……………………。
つめたっ!?
こ、この人ら、こんな冷たい川で泳いでたのかよ。
泳ごうにも腰より深く浸かる根性がないので、ゆっくりと歩く。リハビリしてる気分だわ。
「おや? 進次郎君、釣りはもうおしまいかい?」
飛鳥さん、なんでよりによって水深が深いところに行ってんだよ。
顔しか出てねえじゃん。
「人が来る前に泳ごうかと思いましてね」
早めに泳いどかんと、この人ら飽きるかもしれんしな。
皆が陸で駄弁ってる中、一人だけ川遊びって泣けるだろ?
「間近でアタシの水着を見に来たんでしょ? このスケベぇ」
「はは、良くお似合いですよ」
いやぁ、努力が窺えますなぁ。
美形に生まれたこと、胸が育ちやすい体質に生まれたこと。それ自体は運かもしれないけどさ、ここまで磨き上げたのは努力よ。
体型維持したり、髪を手入れしたり、色々やってると思うんだよ。
胸とか尻も、綺麗に見えるような運動とか、多分そういう努力してるんだろうな。
「茜さんと影山さんも、可愛い水着ですね」
「あらあら、ありがとねぇ」
「可愛くないし……」
茜さんがビキニとは驚いたな。
布面積は広いけど、それでも茜さんが着るには露出が高すぎる。
この人こそタンキニとか着てくると思ったんだけど、巨乳だとキツイのかな?
影山さんはシャツを着用してるけど、逆にセクシーな気がする。
「飛鳥さんも相変わらず可愛いですね。良く見えないけど、わかります」
「ははは、キミは正直者だなぁ」
うん、可愛いのはいいんだけど、もうちょっとこっちに来なよ。本当にギリギリ足着いてるって感じじゃん。
「未智は泳がんのかな?」
平泳ぎで、未智さんのもとへ向かう風夏さん。
うわ、スケベだなぁ……。
「進次郎君、何かあったのかい?」
「え? 何かって?」
「いや、キミさ、平泳ぎしてる風夏を後ろから眺めてたけどさ」
「ま、まあ……男ですから」
「いつもと違う目なんだよなぁ」
てっきり嫉妬で暴れるかと思ったがそんなことはなく、首をかしげる飛鳥さん。
鋭いな、妙に。やっぱり人を良く見てるわ、この人。
「いつものキミだったら、もっとスケベな目で見てるはずなんだよなぁ」
「あっ、それは私も感じました。妙に落ち着いているっていうか」
「そうやねぇ……私は魅力がないのかなぁって、ちょっと落ち込んでたんよぉ」
こわっ……女子こわっ……。
女の勘って、よくある『女性は優れてる!』みたいな、しょうもない持ち上げだと思ってたんだが、本当に存在するのか?
「未智と何かあったのかい?」
「釣りの邪魔だからあっちに行けって、言われただけですよ。キツい言い方だから、落ち込んじゃっただけです」
「ふーん」
納得してないような顔で、話を打ち切る飛鳥さん。
うん、誤魔化せてないな。上手い言い訳だと思ったんだけど。
ここで追及やめるあたり、大人だよなぁ。
「それにしても仲良いわよね、アンタ達」
「え? 俺と未智さんが?」
「スキンシップしないタイプの子なんだけどね、アンタにベッタリよね」
言われてみりゃそうだな。
飛鳥さんほどじゃないけど、ボディタッチ多いよな。
すぐに勘違いさせるサークルクラッシャータイプだと思ってたけど、俺にだけか。
「んん? なんか嬉しそうだな?」
「え、いや、気難しい猫が懐いてくれたら嬉しいでしょう?」
「はは、猫か。たしかに猫っぽいよな、未智は」
とっさに適当なこと言ったけど、実際どうなんだろ。
無意識に笑っていたみたいだけど、どういう心境で笑ってたんだろうか。
信頼されていることに対する喜びか、難攻不落の乙女を篭絡したことに対する優越感か。どっちでもいいっちゃいいんだけど。
「さてと、もうひと泳ぎする前に、そろそろ一本……」
「ダメです」
影山さんが、陸に上がろうとする飛鳥さんの腕を掴む。
一本? ダメ? 何が?
「一本ぐらい、別にいいだろぉ?」
「お酒飲んで川は危険です。パンフレットにも書いてます」
ああ、お酒ね。え、この時間からお酒?
「ビール一本で酔わないってぇ。私結構強いって知ってんだろ?」
「ダメなものはダメです。死んでからじゃ遅いんですよ?」
飲酒して川に入るぐらい皆やってると思うけど、たしかに危険だな。
にしても、二十代前半の子に怒られるアラサー、見てていたたまれないな。
「進次郎君も説得してくれよぉ」
「諦めてください」
なんで確定負けするヤツの弁護をしなきゃいけないんだよ。
「なんでだよぉ、私のこと好きなんだろぉ?」
どんだけ飲みたいんだよ。
むしろアンタは止める側だろ。しっかりしてくれよ。
「好きだから止めるんです。もしものことがあったらどうするんですか?」
「うー……」
本当に弱いな、〝好き〟って言葉に。
「そういや、今日は髪の毛くくってるんですね」
「え? ああ、短いけど、それでも川遊びだし」
気にするわりには、さっき普通に潜ってなかったか?
「その髪型、可愛いですね」
適当に褒めとこう。これでビール諦めてくれるだろ。
可愛いのは事実だしな。
あっ、潜った。照れ隠しに潜った。
「アンタ、飛鳥さんのこと好きすぎじゃない?」
「影山さんのことも好きですよ」
あっ、潜らされた。照れ隠しに潜らされた。っていうか沈められた。
マジでやめて、ゴーグルつけてないから。
いや、本気で沈めすぎだって! マジで抜け出せねぇんだけど!
極限まで俺と密着しながら、俺を沈める影山さん。
スケベなことを考える余裕がないくらい、本気で沈められたよ。
うん、水場で影山さんをからかうのやめよう。いつか死ぬ。
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