第55話 巨大怪獣ベヒモス

「な、なんだあれは!」


 思わず声を上げてしまった。

 だって、あまりにも現実離れしすぎている。


 それは全長30メートルにもなる巨大なロボット。

 これを見てビビらない奴はいない。


『これは怪盗イベント名物のでございます! 怪盗の敵は警察だけではございません! あのベヒモスにも要注意ですよ』


 あれがフォトの言っていた巨大ロボか。

 僕が思っていた以上にヤバそうな代物だ。


 まるで怪獣のような禍々しい見た目。

 特に長い尻尾が特徴的だ。


 恐竜に似てはいるが、腕は大きく発達しており、振り下ろせばかなりの威力が予想される。


「ベヒモスはランダムで街を徘徊して、我々に攻撃を仕掛けてきます。見つからないように立ち回る必要がありますね」


 宝石の探索と同時にベヒモスを回避するルートを探さねばならないわけか。

 思ったより厄介だな。

 ランダムに動くらしいので、かなり臨機応変な立ち回りが要求される。


『怪盗の皆様、ベヒモスを倒せばボーナスとして100の宝石が手に入ります。優勝は確実ですよ! ベヒモス撃破に挑戦してみてはいかがでしょう?』


 不可能だと分かって言っているかような口ぶり。

 恐らくは冗談のつもりなのだろう。


「やはりマスターでもベヒモスは倒せませんか? あれを倒せば優勝確定ですよ」


「無理だね。見た限り装甲が厚すぎる。少なくとも、もっと強力なアイテムが必要だ」


「へえ。逆に言えば、強力なアイテムがあれば、倒せる可能性はあると?」


「あくまで可能性だよ。今は言っても仕方ないことだし、逃げる方に専念するよ」


 特にあの腕は強靭だ。

 恐らくどんなアイテムを使っても破壊は難しいだろう。


『そして最後は恒例ので人気投票もあります。優勝した怪盗だけが決め台詞を言えますので頑張ってくださいね!』


 この人気投票で多く人気を取った方の勝ち。

 それが僕とメギドとの勝負だ。


 普通に人気投票をしたのなら全く勝ち目は無かった。

 だが、大会なら優勝すればかなり目立つことは出来るので、人気での勝ち目もゼロではない。


 そしてメギドに勝つことができたなら、確実に僕の粛清も無くなるだろう。

 この大会は僕が怪盗として生き残る最後のチャンスでもある。


「おおっ!」


 会場に歓声。

 見てみると、そこにメギドを始めとした怪盗の集団が到着していた。


「ふん、やはりで来ましたか。雑魚は群れるのが好きですな」


 怪盗には集団行動を好むタイプもいる。

 人数は多いほどやれることは増えるので、間違った作戦ではない。

 むしろ有効なやり方だと言える。


 ただし報酬や人気が分散してしまう弱点もある。

 さらに怪盗には我が強い人が多く、まとめるのはかなり強いリーダーシップが必要だ。


 メギドはその自信があるというわけだ。

 チームの人数は10人。

 男女比は半々で思ったより女子比が高い。

 華を狙ってのことだろうか。


「ちなみにチームメギドに入れるのは、彼に認められた実力がある怪盗だけです。風の噂では『面接』とかもあるらしいですよ」


「うえっ。僕だったら、書類選考で落ちそうだね」


 まあ、こんなイケイケのチームに入ってしまったら、空気だけで死にそうなので誘われても入るつもりは無いけどね。

 陰キャにとってチームは地獄のような環境である。


「奴のチームは全員が少なくとも人気ランキング20位以内を確保しているらしいです。曰くチームメギドに入れば人気上位は確実だとか。あんなヤバそうな奴らなのに安定したチームだと憧れられているのです。周りは人気目当てのコバンザメかもしれませんな」


 在籍すると確実に人気を得られる。

 これがチームメギドの魅力らしい。


 チームの他の面々もメギドに続くように攻撃的なファッションセンスだ。

 明らかにというのが分かる。


 まるで自らの力を誇示しているかのような服装である。

 そんなチームメギドが歩くだけで周りは道を譲っていく。

 効果は絶大のようだ。


「きゃああ! メギド様ぁぁぁ!」


 歓声のほとんどがメギドに向いている。

 人気ランキングが2位なので当然だが、有名チームに所属しているというのもポイントらしい。


 チームを作るのは人気の面でも有効か。

 僕も道を譲ろうとしたが、メギドの方が僕に向かって進んできた。


「よう、最下位に失敗作。逃げずにきちんと来たらしいな?」


 そして話しかけてきた。相変わらずを漂わせる男である。







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