第54話 ルール説明

 午後7時30分。

 体を落ち着かせて準備を整えた僕は、会場へ到着した。


 開始時刻は午後8時。

 あと30分でいよいよ怪盗バトルロイヤルが始まる。


 既に会場にはたくさんの怪盗がいた。

 街中の怪盗が今回は集まっているのだ。


 それぞれが野心に満ちた表情であり、なおかつ輝きを放っている。

 僕はここにいる全ての怪盗に勝たなければならない。

 それがどれだけ困難なのかは、今の会場の雰囲気を感じていれば分かる。


『さあ、皆様お待ちかね、全ての怪盗が参加する怪盗バトルロイヤルの始まりです!』


 実況からも熱のこもった声が聞こえてくる。

 いや、実況だけじゃない。

 観客の熱量も普段とは比べ物にならないほど膨大であった。


『観客の皆様、盛り上がっていますか~?』


「うおおおおおおおお!」


 実況の声に煽られた観客が揃って声を上げる。

 本当にお祭り状態である。


 この日だけは衛星を通じて街の全ての様子がモニターに映し出されるらしい。

 観客はそこで目当ての怪盗を応援して楽しむという仕様のようだ。


『さて、今回はかなりの特殊形態であります。なんと街全体がフィールドなのです!』


 実況からの説明。

 一応フォトからも説明を受けたが、確認がてら僕も聞いておく。


『現在、街中にビー玉サイズの小さな宝石が隠されています。最終的にこの宝石の総取得が最も多い怪盗が優勝として、決め台詞を言える権利を得られるのです』


 街全体に散らばる小さな宝石を見つけるのが今回の目的だ。

 僕は一つでも多く宝石を集めてトップに立たなければならない。


「マスター。宝石はどこにあるのか分かりません。その辺の草むらに落ちているかも知れませんし、あるいはどこかのビルの屋上に転がっているかもしれません。今回はサポーターによるレーダーも無効です。虹色に光っているので分かりやすくはありますが……」


 街全体から自力でビー玉ほどの宝石を探し出す。

 これはかなり大変だろう。


 とにかく探索して、宝石を多く所得することが重要となる。

 時間との勝負だな。


 逆に考えれば、戦闘は時間の無駄だ。

 できれば戦わず宝石探しに専念したい。

 多くの怪盗が同じことを考えているだろう。


「いえ、そうでもありませんよ。宝石は他の怪盗から奪うことも可能です。色々な怪盗に喧嘩を売って、宝石を奪いまくった方が有利と言えるかもしれません」


「なるほど。でも、その怪盗が宝石を持っていない可能性もあるよね?」


「ええ。特に低ランクほど宝石は持っていないと思われています」


 通常、低ランクは能力が低いと思われるのが定説だ。

 それには探索能力も含まれる。


 だから低ランクと戦っても宝石を持っていない可能性が高いので、無駄足となる場合が多い。

 低ランクほど狙われにくいのだ。


「僕は最低ランクだし、しかもステルスもある。これは有利だと考えていいよね?」


「もちろんです。うまくいけば、誰からも襲われずに終われるかもしれません」


 探索に専念できればそれだけ宝石の取得数も上がる。

 本当に優勝も夢ではなくなった。


『さて、皆様。もちろん警察も出現いたしますよ! 数も通常の比ではありません。今回のランクはなんと『EX』! 警察の能力はピンキリです!』


「ランク、EXなんだ」


「ええ、これは全てのランクの警察が出現するという意味です。怪盗だけでなく、警察も全員集合ですな」


 強い警察もいれば、弱い警察もいる。

 誰とぶつかるかは運しだいってわけか。


 本当にかなり運が絡むようだ。

 だからこそ、最下位にもチャンスはあるのだろう。


『今回は捕まえた怪盗に対してボーナスもつくので警察の気力も充実しております!』


 警察も多いが、怪盗の数も多いので狙いは分散される。

 しかも、上位の怪盗ほど警察の報酬が高い。


 つまり、ランキング上位ほど狙われて、下位は狙われにくい。

 この部分も最下位である僕たちが有利な部分だ。

 警察にも妨害される可能性は低い。


『さらに警察以外にもとんでもない敵もいますよ。あそこをご覧ください!』


 スポットライトが当てられる。

 そこにいたのはとんでもない『バケモノ』だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る