6章 怪盗バトルロイヤル
第53話 それぞれの決意
「怪盗さん、おはよ!」
大会の会場に向かう前に僕は学校の屋上へ来ていた。
姫咲さんとの待ち合わせだ。
目的はカンニングペーパー。
姫咲さん曰く、かなり拘りたいので直前まで待ってほしいとのことだった。
それだけ本気で取り組んでくれたのだろう。
「お待たせだね。なんとか完成したよ~。はい、カンペ。……ふああ~」
少し眠そうに目をこする姫咲さん。
もしかして、寝てないのだろうか?
そんな彼女から受け取ったカンペのサイズは掌よりもさらに小さい。
だが、僕の視力なら十分に見ることが可能である。
そこもきちんと計算されているらしい。
「申し訳ありませんが、カンペの内容をチェックさせていただきますね」
フォトが確認する。
結構な文字数に見えたが、そこはさすがに機械というべきか、一瞬で読み終えたようだ。
「むう、完璧です! これ以上のものを書ける人はこの世に存在しません!」
フォトの口から思わぬ大絶賛の言葉が出て、つい面食らってしまった。
「フォトがこんなに褒めるなんて珍しいね。明日は雪かな?」
「私は良い物はきちんと褒めるんですぅ! マスターも見てください!」
フォトからカンペを渡される。
読んでみると、その内容に驚いた。
なんだこれ。
驚くほどしっくりとくる。
まるで自然に僕が喋ったかのような、それでいて、難しい感情的な言葉が一切無い。
多少は淡々としているものの、そのおかげで丸読みしても違和感が無いように思えた。
この部分も完璧に計算しつくされているのだろう。
さらに言うなら、とても字が綺麗だった。
ただ綺麗なだけじゃない。
読みやすさに特化した完璧な書き方だ。
うん、天才だ。
フォトが思い付きで頼んだだけだったのに、それがとてつもない天才を生み出す結果となってしまった。
一番は頼もしさだ。
自信を持って読める。
だからこそ詰まらずにそのまま言葉にすることができるんだ。
僕がここまで自信を持てる日が来るなんて思わなかった。
「これなら感情を込めなくてもある程度は伝わると思う。本読み感覚でいけるから、気は楽なはずだよ」
頼もしい言葉とは対照的に、姫咲さん自身は少しだけ複雑そうな表情となっている。
「えっと、姫咲さん? どうしたの?」
「あ、ごめん。ただ、私の考えた台詞でいいのかなって思っただけ。やっぱり私は不器用だったとしても、怪盗さんの本音が聞きたかった……かも」
「それは……」
「うん。本当にごめん。それは私の我儘だよね。怪盗さんは上手く喋れなくて苦しんでいるのに、無理やりを押し付けたらダメだよね」
そうだった。
姫咲さんは本来、怪盗の本音を聞きたかったんだ。
今回のことで複雑な気分になるのは当然か。
本当に無理をさせてしまったようだ。
「ごめん。いつか必ず、コミュ障を克服出来た時には僕の本当の言葉をきちんと口にできるようにする。絶対に約束するよ」
「良い決意です。その思いがあればきっと大丈夫です。近い未来、マスターはコミュ障を克服できることでしょう」
「うん。怪盗さんには怪盗さんの戦いがあるもんね。頑張ってね。私も見に行くから」
最後はどうなるか分からない。
カンペがあっても喋れなくなるのかもしれない。
そもそも優勝できるかどうかも分からない。
普通に考えたら最下位が優勝など思い上がりだ。
それでも、やるだけはやってみよう。
それも僕の戦いだ。
「ええ。私にも自分の戦いがあります」
「へえ、どんな戦い?」
「ここで有名になって、周りの奴らを見返してやるのです。フォト様凄い~、みたいなことを言われたいのです!」
「ずいぶんと欲にまみれているね」
「ふん。欲のない人間は成功しませんぞ?」
「なるほど」
まあ、それぞれに戦いはある。
色々な思いを胸に秘め、怪盗バトルロイヤルが今始まる。
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