第56話 チームメギドVS怪盗クチナシVS怪盗アメジスト

「おい、テメエがメギド様に喧嘩を売った最下位か?」


「身の程知らずな男ね。メギド様、いっそここで消してしまいますか?」


 今日はメギドだけでなく、周りの皆さんも威圧的に接してくる。

 怖いんですけど!?


「はっ、群がることしかできない雑魚どもが。まるでアリですな。チーム名は『アント』にした方がいいんじゃないですかぁ?」


「な、なにい!?」


 フォトめ、臆さず周りの怪盗を煽っている。

 馬鹿なのか大物なのか分からない子だ。


 当然、チームメギドの面々は怒り心頭である。

 完全に目を付けられてしまった。


(フォト。あまり余計なことを言うものじゃないよ。みんな凄く怒っているよ?)


(ふっ、その割にマスターはあまり恐れていないようにも見えますが?)


(まあ、それは……)


 怒りは怖い。

 ただ、その分だけがつくので対応がしやすいのだ。

 なので、怒りを向けられた方がというカテゴリーで考えれば、逆に安心だったりする。


(本当に機械みたいな効率性ですね。そこがマスターらしいんですけどね)


(ほっといてくれ。自分でも気にして……っ!?)


 ただ一人、リーダーであるメギドだけはするようにじっと僕を見つめていた。

 怒りに満ちた他の怪盗たちより、僕はそちらの方に脅威を感じる。


 なんだろう。

 やはり彼からは得体のしれないがした。

 油断はできない。


「てめえ! あんま舐めてると、ここでぶっ殺すぞ!」


 血の気の多いメンバーが詰め寄って来る。

 手を上げているのでこれは攻撃の合図だ。


 やはりは予測できる分、脅威ではない。

 とりあえず避けておこう。


「こ、この野郎! 避けやがった! 生意気な!」


「しかも無言だぜ。きっと馬鹿にしてやがるんだ。すました野郎だぜ!」


 違います! 僕はコミュ障なだけです!

 本当は喋りたいんですぅ!


 でも避けた事で相手の怒りに火をつけてしまったのは確かだ。

 ちょっと厄介である。



「あら、ごきげんよう。ふふ、盛り上がっているわね」



 その時、美しく透明な声が響いた。

 怒りさえも一瞬で凍り付くような冷たい声。


 誰もが聞き惚れてしまうその声は、一瞬で空気が変わるほどの存在感を放っている。


 そして今までチームメギドに黄色い歓声を送っていた女性客も、既に彼らに眼中が無いと言ったかのように、その声の主を見ていた。

 完全に目はハートマークだ。


「アメジスト様ぁぁぁぁぁ!」


「ああ、なんて美しい。見るだけで涙が出るわ!」


 ハートマークどころか泣いている!?

 怪盗アメジスト、本当にとんでもない人だ。


 既にチームメギドは僕のことなど忘れてアメジストに敵意を全開にしていた。

 まあ、ありがたいんだけど、ちょっと寂しいというか、複雑な気持ちである。


「よう、アメジスト。俺らに話しかけて来るとか、珍しいじゃねえか」


「あ、ごめんなさい。貴方たちに用は無いの」


「ああ? なんだと!」


 アメジスト様、この上なく美しい笑顔でこの上なくバカにした表情だ。

 さすが他の怪盗をと呼ぶだけはある。

 そのままメギドの横を通り過ぎて、彼女は僕の方へ近づいてきた。


「いよいよね、怪盗クチナシ。貴方の本当の強さと正体。今日、このアメジストが暴いて見せる。楽しみにしておくことね」


 そして耳打ち。

 正直、緊張するので至近距離は勘弁して欲しいです。


 一気に会場が騒めいた。

 怪盗も観客も「あいつ、何者だ?」って目で僕を見ている。


 聞こえてくる声は「知ってる?」「ううん、知らない」「あんな怪盗いたっけ?」みたいな声が多い。

 やはり僕は認知度が低いらしい。

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