第51話 悪夢
その夜、僕は夢を見た。
それは僕がコミュ障になっていく過程であった。
僕は昔から好みが普通の人とはズレていた。
センスがまともじゃなかった。
皆がAを好きだと言えば、僕が好きなのはいつもBになる。
その主張を毎回繰り返していれば、どうなるかは言うまでもない。
『おかしい』とか『変わっている』などはまだ可愛い。
それが次第に『空気が読めないムカつく男』とか『逆張りして喜んでいるくだらない人間』といった言葉に変化するまで、そう時間はかからなかった。
その段階になって、ようやく僕は気付いたんだ。
僕が口を開くことで不快になる人間は思ったよりも多かったらしい。
僕はただそれぞれの好みについて話し合いたかっただけなのに皆はそうは思ってくれなかったようだ。
別にクラスのみんなを否定したいわけじゃなかった。
僕にも好みがあることを知って欲しかっただけなんだけど……な。
周り人たちの方は僕を否定する。
だから僕は常識を覚えることにした。
皆がAを好きと言えば、それに合わせて僕もAが好きだと言えばいい。
なんだ。簡単なことじゃないか。
むしろ楽だ。
ただ周りが言うことに賛同すればいいだけ。
きっとこれでうまくいく。
そう思っていたが、僕は自分で思っていた以上に不器用な人間だったようだ。
うまく合わせているつもりが、それは周りからどうしても不自然で不格好に思われたらしい。
『ねえ。この服、いいよね!』
『うん、いいと思う』
『いや、私はこっちの服の方がいいと思うけど……』
『うん、それもいいと思う』
『……は? なにそれ。本当はどっちがいいと思っているの?』
『それは……』
今度は『適当に合わせているだけ』とか『思ってもいないくせに……』と言われ始めた。
怒りに満ちた目で『分かったフリをしているにわか』と罵られたこともあった。
嘘をつくのが苦手。
かといって正直に言っても相手を怒らせるだけ。
まるで出口の見えない迷路へと迷い込んだ気分だった。
どんどん自分が沼にはまっていくのが分かる。
次第に不自然な言動になっていく。
自分で分かっているくらいだから周りからはよりおかしく見えたのだろう。
不自然を隠すための行動はさらに僕の違和感を広げていく。
ある日、クラスで一番の人気者であるイケメン男子にこう言われた。
『お前が喋るだけでみんなが楽しくなくなる。お前、もう二度と口を開くな』
その言葉を聞いた時、とうとう僕はどうやって喋ったらいいか分からなくなった。
コミュ障である梔子瞬の完成だ。
この先の人生はそれを受け入れてただ生きていくだけだ。
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