第48話 カンペはあり派? それとも無し派?

 決め台詞のためにカンニングペーパーを作成しなければならない。

 フォトはその役割を姫咲さんに任せたいらしい。


「姫咲さんにはピッタリです。あなたはクラスのアイドル。つまりリア充であり、スクールカーストのトップです。きっと全ての人間に好かれるような言葉が思いつくでしょう」


「フォトちゃん。それ、褒めてる?」


「もちろんです! あなたにしかできないお仕事です。これができれば怪盗から好かれることは間違いありません。マスターが喜んでくれるのですよ?」


「む? 怪盗さんから好かれる。……喜んでくれる」


 フォトの詐欺のような言葉で姫咲さんの目の光が失われていく。

 彼女が将来悪い怪盗に騙されないか心配になってきた。


「あなたは頭がいい。特に国語の成績は常に学年1位です。つまり文章力が並外れています。作者の気持ちとか理解できそうだしその道のプロです! 自信を持ってください」


 なぜか姫咲さんの成績を知っているらしいフォト。

 しかも、だいたい合っている。


「…………う~ん。どうしようかな」


 しかし姫咲さんはあまり乗り気ではないようにも見える。

 さすがに怪しんでいるか。


「むう、やはり無理ですか?」


「無理じゃないけど……怪盗さんは私が考えた台詞を言ってくれるんだよね?」


「そうです。おかげでマスターは大助かりです。憧れの怪盗から感謝されますよ!」


「それは嬉しいけど、私が作った言葉じゃなくて、が聞きたいよ。偽物じゃない本物の言葉が楽しみなんだよ」


「……む」


 フォトもつられて複雑そうな表情となる。

 少し納得できる部分もあるようだ。


 姫咲さんがカンペを作るのに乗り気じゃない理由。

 それは彼女のカンペは結局という部分だ。


 彼女が望むのは怪盗の本心だから、別人が作ったカンペ……それも自分が作った言葉を聞かされても、複雑な気分になるのは当然である。


「私とて不器用でも本音の方が良いと思います。口先だけ立派な奴なんかより、中身が立派な怪盗こそが本物ですからね」


 フォトもチャラい怪盗が嫌いと言っていた。

 アピール力を上げるという行為は、普段フォトが言っている事と真逆である。


「ですが、今のマスターには時期尚早かと。下手をしたら本番で全く喋れなくなる危険もあります。そうなったら、ショックでマスターは廃人となってしまうかもしれません」


「いや、さすがに廃人にはならないと思うけど!?」


「そうでなくてもトラウマになる可能性はあります。トラウマになってしまったら、余計にコミュ障が悪化する危険がありますよ。マスターはそうならないと断言できますか?」


「そ、それは……」


 これに関してはフォトが正論だ。

 今回は本当に僕のことを考えてくれている。


 実際にカンペがあればありがたいし、心強いのは確かだ。

 特に粛清のことを考えれば今回は後が無いので失敗はできない。

 フォトの案に乗った方がいい気がしてきた。


「えっと。ごめん、姫咲さん。僕もカンペがあった方がありがたいかも……」


「そっか。分かったよ。怪盗さんがどうしてもって言うなら。この前のお礼もあるしね。明日の大会前までに完成させておくから、それまで待ってね」


 姫咲さんは渋々ながらも納得してくれた。

 こんな無茶なオーダーを受け入れてくれるとは、むしろこちらの方が大きな借りを作ってしまった。


「これで対策が決まりましたね。うまくいけば、人気でも勝てるでしょう」


 正直、まだ勝率はかなり低いのだが、それでもお先真っ暗という訳でもなくなった。

 進むべき方針が決まっただけでも良しとしよう。

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