第47話 カンペは最強の武器?
(うぬぬぬぬぬぬ。どうしましょう、何も思い浮かびません。明日が大会なのに!)
翌日、フォトは決め台詞対策をずっと考えてくれているのだが、良い案は思い浮かばないようだ。
常に唸り声が僕の頭に響いている。
ちなみになぜテレパシーで脳内に語り掛けてくるかというと、今が授業中だからである。
つまり、僕は授業中に鞄の中にいるフォトの唸り声をずっと聞かされているわけだ。
とても迷惑だと言いたいが、僕の為に唸ってくれているので文句は言えない。
「それでは教科書の次のページを読み上げてください。今日は八日なので、出席番号が八番の人に読んでもらいますね」
先生の言葉を聞いた僕は急いで意識を授業に戻した。
その出席番号の生徒は僕だ。
「えっと、出席番号八番の生徒は……梔子君ですね。お願いします」
その前に一瞬「梔子君って誰だっけ?」なんて言葉を先生が漏らした気がするが、聞かなかったことにしておこう。
相変わらず僕は存在感が無い。
(し、しまった! ついにこの日が来てしまいました! Xデーです! マスターが先生に当てられてしまったのです。これは……終わった!)
フォトがこの世の終わりみたいな声で脳内に話しかけてきた。
一瞬、姫咲さんとも目が合うが、なぜか彼女も心の底から心配そうな表情で僕を見ている。
ずいぶんと大げさだ。
さすがの僕も教科書を読み上げるくらいはできる。
僕はそのまま席を立って、特に詰まることなく教科書を読み上げて、再び席に着いた。
(はあああああああ!?)
脳内でフォトの驚愕の声が聞こえて来る。
よく見ると、姫咲さんも同じような表情だ。
(フォト? どうしたの?)
(いえ、だって……まあ、いいです。放課後に言います)
そして放課後。
屋上に集合すると同時にフォトが懐から飛び出して僕を睨み付ける。
「この詐欺師!」
「はあ!? 急になんだよ」
「なんでコミュ障なのに、あんなスラスラと教科書を読めるんですか! 普通、あんな時はオロオロしたり、あたふたして大恥をかくのがコミュ障というものでしょ! せっかく大笑いしてやろうと……じゃない、慰めてあげようと思っていたのに!」
ちょっと待て。
今、一瞬マスターを笑いものにしようとしていたな?
「わ、私もちょっとびっくりした。怪盗さん、全然コミュ障じゃなかったよ」
姫咲さんも同じ感想らしい。
よほど僕のしたことがコミュ障として意外だったのか。
「さてはあなた、やはりコミュ障ではありませんね。普段はサボっているだけです!」
「むむ、それはダメだよ。怪盗さん、嘘つきは泥棒の始まりだよ。……あ、でも泥棒って怪盗さんのことだから、それでいいのかな?」
「いやいや、ちょっと待って。話を聞いて!」
二人の言いたいことは分かった。
コミュ障なので本読みが苦手と思われたらしい。
「あれは朗読だから大丈夫なんだ。本を読むのは好きだし、誰かと会話しているわけじゃないから、問題は無いよ」
「なんですと? つまりマスター。あなたは朗読なら可能だというのですか!?」
「そうだよ」
「なぜそれをもっと早く言わんのです!」
怒られた……と思ったのだが、フォトの表情は笑っていた。
勝利を確信した顔だ。
「マスター、これで決め台詞の問題は解決です。我々の勝ちですな。はっはっは」
フォトは妙案が閃いていたらしい。
僕が朗読できるのと関係あることだろうか?
「最終兵器、カンペを作ればよいのです。これにて解決です。勝利です!」
「……カンペ?」
「カンニングペーパーです。確かに本番は私はいません。ただし台詞を用意することは出来ます。あらかじめ小さな紙に台詞を書いてマスターがそれを読み上げればいいです」
「ああ、なるほど」
カンニングペーパー。
単純であるが、意外と効果的な作戦じゃないだろうか。
決め台詞は高い所に立って言う。
恐らく客席からはカンペは見えないはずだ。
「でも朗読しかできないから棒読みになるよ。感情を込めて言うのは苦手なんだ」
「む、確かに。となると、無難な台詞を用意したいです。ですが、私が考える台詞だとキザな台詞になるので、どうしても違和感ですよね」
無難でかつ、心に響くような台詞。
これはこれで難しい。
少なくともコミュ障の僕には想像もできない台詞だ。
誰か言葉のスペシャリストのような人がいればいいのだが……
「そうだ! 姫咲さん。あなたが決め台詞を考えてもらってもいいですか?」
「へ? 私?」
まさかそこで自分とは思っていないかったらしく、姫咲さんが首を傾げていた。
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