第43話 アメジスト様は悪戯と推理が好き?

 いきなり僕の首を刎ねようとしたアメジスト。

 避けれたからいいものの、当たっていれば今頃……


「なななな、何をするのですか! やはり粛清ですか!?」


「粛清? なんの話? 私はただ、貴方たちの力を確かめただけよ」


「確かめるって、当たったらどうするつもりだったのです!! 我々は死ぬ所でしたよ!!!」


「ああ、失礼。実はこの剣、なのよね。これで切られたら、一瞬で傷も疲れも取れるわ」


 そうして今度は剣の切っ先で僕に触れてくる。

 瞬間、体が軽くなった。

 いや、というより、疲労が消えたらしい。


「ユニークでしょ? このは激レアアイテムよ。


 僕たちは開いた口が塞がらない。

 つまり、一杯食わされたということになる。


 アメジストは悪戯っぽい表情で舌を出していた。

 さっきとは違って子供のような無邪気な笑顔である。

 今までの雰囲気とはまるで別人だ。


「ふふふ、驚かせてしまったかしら。ごめんなさいね」


「あ、あなた! さっきと全然態度が違うではありませんか!」


「いつまでも肩ひじ張っていても疲れるだけでしょ? ここは二人きりなのだから、気にする必要は無いわよ」


 プライベートでは態度を変えるタイプらしい。

 でも、そんな彼女を見ても失望するようなことも無く、むしろその態度に愛嬌も感じられた。

 これもトップ怪盗の魅力か。


「言っておくけど、これは貴方にも言えることよ。怪盗クチナシ」


 態度は柔らかくなっても、その目つきは変わらない。

 鋭い眼光が僕を睨み付ける。


「そろそろ貴方の正体を話してもらおうかしら。さっきからずっと黙っているのだけど、もう隠し事は無しよ。貴方、何者なの?」


 疑うような眼差しのアメジスト。

 自分が砕けた態度を見せたのは、僕が何かを隠していると思って、それを聞き出す為だったらしい。


雪那せつな。彼の情報を提示してもらえる?」


『了解しました。マスター』


 アメジストの肩に乗っている人形の目が光る。

 どうやら彼女のサポーターらしい。

 見た目は雪女みたいで、可愛らしさと同時に美しさも表現された精巧な作りだ。


『怪盗クチナシ。初めての怪盗活動で新人としては異例の速度で宝を盗む。その次はAランクミッションを成功。それも最速の結果を記録しています』


「彼の戦闘能力は?」


『不明。計測不可です』


 なんと相手の強さまで分かるらしい。

 恐ろしく高性能なサポーターだ。


 優秀な怪盗には優秀なサポーターがつくのだろうか。

 僕の強さは分からないらしいので万能ではないようだが。


 でもまたしても違和感だ。

 やはり妙に機械的に感じる。


 フォトが特殊なのだろうか。

 これがメギドの言っていたと関係しているのかもしれない。


「これだけの成績にも関わらず全く話題にならない。おまけにランキングは最下位。これはどう考えてもおかしい。というわけで教えてもらおうかしら。何を企んでいるの?」


「え? それは……その……あ……う」


「へえ、やっぱり言えないんだ。ひょっとして、不正かしら?」


 違います!

 コミュ障の僕は言えないんじゃなくて、喋れないんです!


 ただ、アメジストの言いたいことは分かった。

 どうやら不正を疑っているらしい。


 粛清じゃなかったのはよかったが、不正だと思われるのも同じくらい厄介である。


「でも、不正だとしたら妙なのよね。貴方は私の剣を避けた。つまり、実力は本物だということ。不正なんかする意味は無い。最下位なのは何か別の理由があるのね?」


 まるで名探偵のように推理を始めるアメジスト。

 しかも割と当たっている。


「そういえば、貴方は無駄にステルスを発動させているわね。もしかして、自分でステルスを制御できないってことかしら?」


「おお、正解です! さすがですね、アメジスト様」


 フォトは思わず拍手をしていた。

 自力でここまでたどり着いたのは姫咲さんを除けば彼女が初めてだ。


 いや、同じクラスで過ごしてきた姫咲さんと違って、初対面で見破った分、アメジストはさらに恐ろしい推理力の持ち主である。


「でもそれだとまだ疑問が残るわ。別にステルスが止められなくても決め台詞の時にでもアピールすればいい。貴方はむしろ決め台詞の時にステルスが強くなっているわ」


 う、それは正論だ。

 まだ完璧に疑惑が晴れたわけじゃないようだ。


(フォト。こうなったら仕方ない。姫咲さんの時みたく僕がコミュ障だと伝えてくれ)


(いや、それはやめた方がいいです。そんなことを知られたら、本当に粛清されてしまうかもしれませんよ。特にアメジストほどの怪盗なら粛清の権限も持っていそうなので、下手な弱点は教えない方がいいです)


 なるほど。

 確かに今回は粛清でなかったみたいだが、いつその時が来るのか分からない。


 最下位の僕は崖っぷちだということを自覚しなければならない。

 逆に言えば、アメジストには絶対に僕のコミュ障を隠し通す必要がある。

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