第44話 脅迫状

 僕がコミュ障なのは何としても隠さなければならない。 

 アメジストも僕の考えに気付いたようで、その鋭い目つきをさらに細くする。


「ふん。ずっと黙っている理由については秘密にしておきたいわけね?」


「ええ、申し訳ありませんが、我々にも事情があるのです」


 まるで凄まじい力を隠し持っているかようにニヤリと笑うフォト。

 凄いブラフだ。


 アメジストの方は腕を組んで僕の正体を考えているが、答えは分からないらしい。

 さすがのアメジスト様も僕が黙っている理由がだとはたどり着かなかったか。


「気に入らないわね。私はが嫌いなの。特に貴方はとてつもない力を持っているくせに、それを我慢して押さえつけているように見える。許せないわ」


 な、なんか怒ってる!?

 なにやら彼女の気に触ってしまったらしい。


 普段からきつめな瞳だし、今は相手も周りを気にしていないので余計に怖い。


「ゆ、許せないとしたら、どうするというのですか?」


 フォトも反抗的だが、少し威圧されているようで声が上擦っていた。


「そうね。私とも勝負してもらおうかしら? メギドと勝負するみたいだけど、敵は彼だけじゃなくなるかもね」


 不敵な笑みのアメジスト。

 なんと彼女からも目を付けられてしまったようだ。


「いいわ。貴方の秘密はこのアメジストが暴いて見せる。考えてみたら、怪盗が教えてもらうなんて屈辱的な話よね。やはり自らの手で暴き出すのが怪盗よ。3日後の怪盗バトルロイヤルが楽しみだわ」


 当然ながらトップであるアメジストも怪盗バトルロイヤルに参加する。


 ランキング1位のアメジストと2位のメギド。


 上位2人から目を付けられているって、ヤバすぎない?


「謎の怪盗クチナシか。どっちの方が強いか勝負ね。ふふ、面白くなってきた」


 挑戦的でかつ、強気。

 そしてなによりだ。

 これが怪盗アメジストらしい。


 悪戯好きでもあり、純粋に勝負を楽しむ性格でもあり、そして普段は凛としたクールな態度でもある。


 その全てがアメジストであり、どれもがこの上なく彼女に似合っていた。


 それぞれに使い分けた自分を演じていて、それを楽しんでいるようだ。

 これが一流怪盗のコツなのだろうか。


「ライトニングもいなくなったことだし、最近は退屈していたのよ」


 ああ、そういえば少し前までは怪盗ライトニングがトップだった。


 アメジストと対峙することで分かったけど、ライトニングは相手が悪すぎたのだと思う。


「彼、私に負けたショックで怪盗を辞めたらしいわね。残念だわ」


「ま、ライトニングはメンタルが弱いし、それほど大した怪盗ではありませんでしたよ」


 ん? フォトの奴、妙に詳しいな。

 サポーターだからデータも豊富なのだろうか。


「貴方は簡単に辞めないでね。またお気に入りのオモチャがなくなったらつまらない」


「わ、我々はあなたの玩具ではありません!」


 彼女にとって目を付けた怪盗は遊び道具らしい。

 ライトニングはショックで怪盗を辞めたらしいが、そんな風に見られていたのが原因かもしれない。


「まあ、貴方がの犯人じゃないと分かっただけよかったわ」


「……脅迫状?」


「ええ。こんなものが送られてきたの。ちなみに極秘事項だから、誰にも言わないでね」


 アメジストのサポーターが空間に文字を出現させる。

 それを見た僕は背筋が震えた。



『3日後。怪盗バトルロイヤルに参加する全ての人間が死ぬことになるだろう』



 なんだこれ。

 雰囲気は予告状に似ているが、明らかに異質だ。


「悪戯だと思うけど、一応調査していたの。特に実力がある怪盗の嫉妬からくるものだったら危険だわ。だから貴方に接触したわけ。でも対面してみて分かったけど、怪盗クチナシはそんなタイプの怪盗じゃない。疑って悪かったわね」


 アメジストの本当の目的は脅迫状の犯人捜しだったのか。

 それなら確かに僕は怪しいかもしれない。

 強いのに人気が低いとか、人によっては発狂ものなのだろう。


「まあ、全く会話をしないのは、ちょっと怪しいけどね」


 それについてはごめんなさい!

 コミュ障が完治すればきちんと喋るようにします!


「ふん。ですが、犯人も怪盗相手にずいぶんと強気な奴ですね。いいでしょう。我々も犯人捜しに協力します。怪しい奴を見つけたら報告しますね」


 アメジストの話によると、脅迫状は怪盗の予告状を改良して作られたものなので、犯人は怪盗の可能性が高い。

 さらに文面から嫉妬深い人物だと予想されるらしい。


 結果が出ていなくて嫉妬深い怪盗。

 僕は一人だけ該当する怪盗が思い浮かんだ。


 ただ、確証は無いので黙っておく。

 この手の推理は苦手で、結構外すことが多い。


 でも僕はこのイベントでなにかとんでもない事件が起きるような、そんな嫌な予感がしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る