第42話 クビと思ったら首だった
意味深な台詞を残したメギドは、そのまま去ってしまった。
「マスター。こうなっては仕方ありません。最後の勝負はメギドとの人気勝負となりました。ですが我々は負けません! 勝ちにいきましょう! エイエイオー、です!」
明らかにフォトの様子が変だ。
メギドのさっきの言葉を誤魔化すように勢いよく手をあげている。
「ねえ、フォト。さっきのメギドの言葉だけど……」
「いずれお話しします。今は勝つことだけに集中してください」
どうやら詳細について話したくないらしい。
まあ、フォトがそう言うなら仕方ない。
そして今はそれ以上に相談することがある。
「でもフォト。人気勝負とか、このままじゃ絶対に勝てないよ」
「そうですね。正直、かなり厳しいです。何か作戦が必要でしょう」
「それなら、今から帰って作戦会議をやろうか」
「ええ。今日はもうここにいる意味は無いでしょう」
なにより疲れた。
こんなに人の多い場所に……それも怪盗なんてキラキラした人種が大量にいる場所なんて、僕みたいなコミュ障には激しく精神が削られる。
「ねえ、ちょっといいかしら」
ようやく帰れる……そう思った所で誰かが僕の肩を叩いた。
「ア、ア、アメジスト……様!?」
その人物を見たフォトが思わず声を上げた。
僕は逆に驚きで声が出ない。
またしてもアメジストから声を掛けられてしまった。
そういえば、さっきも何か言いたげだったような気がする。
本格的に僕に用があるのだろうか。
「こっちに来てもらえる?」
手招きするアメジスト。
彼女の言う通りに近づいて行く。
「……え?」
次の瞬間、僕は見たことも無いような部屋にいた。
さっきまでいたダンスホールのような広場ではなく、人一人が暮らすような普通の部屋だ。
「ここは私専用の空間であり、プライベートルームよ。トップ怪盗にはこういった特典もあるの。どう? なかなかいい部屋でしょう?」
「ぬうう! 確かにこれは羨ましいです!」
これはどんなお宝よりも便利かもしれない。
引きこもりの夢のような部屋だ。
さっきは普通の部屋と言ったが、よく見ると綺麗な宝石などで飾りつけされていて、美しいものに拘る彼女の性格が伺えた。
「つまり、我々はあなた専用の部屋に招待された……と」
絶世の美少女とプライベートルームで二人きり。
言葉だけを見れば、羨ましいと捉えられるかもしれないが、僕はコミュ障なので緊張の方が割合は大きい。
(そういえばフォト。アメジストにはペアのお願いをしていなかったね)
一番人気の怪盗だから、真っ先に交渉に行くものだと思っていたが、そうでもなかった。
(さすがに断られるでしょ。最高ランクが最低ランクと組むなんてあり得ません。プライドが高そうだし、あまりに美人すぎるのでいけ好かないのです)
後半はただの君の好みのだよね?
こっちに選ぶ余裕なんて無いだろうに。
(それに彼女は誰ともペアを組まないことで有名です)
そうか。それだったら仕方ないな。
相手からペアを申し出てくれる雰囲気でもない。
とにかく、まずは彼女の要件を聞こう。
でも、なんだろう。
僕の中でまたしても警戒信号がなっている。
基本的に外れたことの無い危機感だ。
(フォト。何か嫌な予感がする)
(む? 本当ですか? 実はクビ通告とかだったりして……)
まさか……と言いたいが、あり得る。
ランキングでは最下位だったし。
(むしろ私達、この場で粛清されてしまう可能性もあります)
(いやいや、さすがにいきなりそんなことは…………っ!?)
そう思ったら、いきなり悪寒が僕を襲った。
とっさに身を屈める。
瞬間、頭上を剣閃が通り過ぎた。
アメジストが僕に剣を振りかざしてきたのだ。
その一撃は正確に僕の首を狙っていた。
速度は音速に近く常人なら避けられない速さだ。
僕じゃなければ直撃だった。
「く、くび」
「……くびです」
僕とフォトが同時に声を上げた。
二人揃って驚きを隠せない。
本当にクビだった。
いや、クビって強制退職のクビじゃなくて、人体の首だけど!
アメジストの手にはさっきまで剣なんて無かった。
高速で出現させて振りぬいたようだ。
完全に不意打ちである。
「…………避けた。やっぱり!」
アメジストは驚きで目を見開く。
同時に何かを確信したような表情でもあった。
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