第41話 怪盗メギド

 あ、やばい。

 めちゃくちゃ怒ってらっしゃる。


 顔は笑顔だが、血管が10個くらい浮き出ている。

 確実にさっきのフォトの『雑魚』って発言を聞かれた反応だ。


「…………っ!?」


 しかもなんだろう。

 なんかやばい雰囲気を感じた。


 僕の中でが鳴っている。

 正体不明の危険な何かを持っているような、そんな嫌な予感だ。


(ねえ、フォト。やっぱりこの人、危険かもしれない。ここは謝って……)


「おおっと、聞こえちゃいましたぁ? 真実を言ってしまってすいませんねぇ。この飛んで火にいる夏の虫さんめが!」


 聞いてねえ!

 むしろめちゃ煽ってる。

 相変わらずマスターの意向を読めない子だ。


 どうしよう。

 僕がさっさと謝ればいいのだが、困ったことにコミュ障の僕は謝る事ができない。


 こんな威圧的な態度で来られたら「あ……」とか「う……」しか言えないのである。


「最下位の分際で生意気な奴だ。そうだよな、ミケ?」


『はい、マスター。生意気ですニャ!』


 メギドの肩に乗っているネコミミの人形が返事をした。

 彼のサポーターのようだ。


 ただ、なんだろう。

 ちょっとした違和感だ。

 妙に機械的みたいな、そんな気がした。


「はっ、あなたこそ万年2位のくせに、何を偉そうにしているのです?」


 フォトの煽りでさらに目が鋭くなるメギド。

 僕の嫌な予感も同じように増大する。


「言いやがったな? なら勝負するか?」


「はいはい、仕方ねーな。勝負してやりますよ。やれやれだぜ」


 うわっ、この人形、凄くムカつく。

 これはメギドじゃなくてもキレるぞ。


 ちなみにずっと俯いて唸っている僕の事は完全に無視です。

 なんで僕の意見は聞かずに話が進んでいるのでしょうか?


(やりました、マスター。見事勝負にもつれ込むことができましたぜ。誉めてください!)


(いや、むしろ怖いんだけど。これ、勝っても恨まれたりするんじゃない?)


(勝負に勝って恨みも買うと? はっはっは。うまいこと言いますな)


(笑い事じゃない!)


(確かに怨恨は怖いですな。よし、そうならないように仕返しする気も起きないくらいボコボコにしてやりましょう。なんなら殺してしまって構いません)


 そんなことをしたら、どっちにせよ僕は粛清だよ!


「勝負は3日後だ。内容はでいいな?」


「………………へ? 人気?」


 さっきまで勇み足だったフォトが一気に真顔となった。

 顔が青くなっていくのが分かる。


「ちょうど3日後に全ての怪盗たちが集うイベント、『怪盗バトルロイヤル』が開催される。そのイベントで人気数の多かった方が勝ちだ」


「…………えっと、あの、そういうのより、なんというか、バトルで決着をつけません? 男らしく、殴り合いで決闘をした方が分かりやすいですよ?」


「いつの時代の話だよ。どれだけ人気が多いか。それが怪盗としての価値だろ?」


「いやいやいや、やっぱり勝負と言えば戦いでしょ? バトルでしょ? それとも、あなたは弱いんですか? 自信が無いんですか?」


「こっちの台詞だよ。お前こそ人気で勝つ自信が無いんだろ? やっぱ最下位だよな」


「な、なにおう! そんなわけありません。いいでしょう、受けて立ちます!」


 フォトさんがあっさり人気勝負を了承してしまう。

 それを見たメギドが笑う


「そこの怪盗! さっきからずっと黙っているが、勝負を受けるってことでいいな?」


 ダメ!

 と言いたいけど、やっぱり言葉が出ない!

 こんな怖そうなのとコミュ障の僕が会話できるわけない!


「じゃあな。楽しみにしているぜ、最下位さん……そしてさんよ」


「…………失敗作?」


 メギドの口からちょっと気にかかる単語が飛び出した。

 恐らくフォトのことだろう。


「ああ、知らないのか。お前も運がないな。そのサポーターは外れだ。なぜなら……」


「マスター。余計なことは聞かなくていいです。行きましょう!」


 メギドの言葉を遮るようなフォト。

 まるで何かを隠したいかのようにも見える。


 そういえばフォトにはがあるんだっけ。

 今さら驚くようなことは無いと思うが。



「そいつはな。なんだよ」



「……え!?」


 しかし、メギドの口から出た言葉は、僕の予想をはるかに上回っていた。


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