第40話 フォトさん、大暴走?

「だう~。ダメだ~。まるで話を聞いてくれません~」


 フォトは僕の手のひらで大の字になって寝転んでいる。

 ギブアップらしい。


 先に結論から言うと、誰も僕たちとペアを組んではくれなかった。

 最初は人気怪盗にペアを申し出ていたフォト。

 素人の僕であるが、その交渉術は確かに悪くないように見えた。


 うまく僕の長所……つまり、強さをアピールして相手にもきちんとメリットがあるかのような話術で期待感を抱かせていた。


 交渉を持ちかけられた怪盗も始めは興味深そうな目でフォトの話を聞いていたのだが、僕のランキングに気付いた瞬間、交渉は全て決裂に終わる。


 ある者は苦笑いで、ある者は馬鹿にするような目をして、その場を去っていくのだ。


 やはりランキングが最下位の怪盗とペアを組む気にはなれなかったらしい。

 フォトの口だけでは、どうしても相手にメリットが伝わらない。


 いかに僕が自分で最強の怪盗だ、とのたまっても、そのランキングが最下位なら、それはむしろ自分の実力を正当に評価できていない無能者の烙印を押されるだけであった。


 こうなれば、とランキングが低い怪盗にも交渉を持ちかけたフォトだが、逆に低い怪盗ほど飢えているというか、失敗できない焦りを持つ怪盗が多いようで、やはりランキング最下位の僕とは組んでくれる余裕は無かったようだ。


 ちなみに一つ気になったのが、僕ではなく、フォトを見て逃げるように去っていく怪盗も見られた点だ。

 ひょっとすると、フォトもポンコツとして有名なのかもしれない。


 悪名が広まっているフォトと、ランキング最下位の僕。


 これはどう頑張ってもペアを組むのは不可能な気もしてきた。


「あ~。お疲れ。まあ、仕方ないよね」


 今回に限ってはフォトを責める気にはなれない。

 むしろよく粘ってくれた。

 交渉術も悪くなかったし、少なくとも会話の練習という点でなら参考になった。


「おのれ! こうなれば、最後の手段です!」


 起き上がったフォトを血走った目で怒りの声を上げる。

 嫌な予感がした。


「他の怪盗に喧嘩を売りましょう! 協力はやめて相手をぶちのめして人気を得るのです!」


 思った通りその作戦は予想以上に物騒であった。

 フォトさん、暴走開始である。


「フォト先生? 落ち着こう。そんな事をしたら、それこそ粛清されるんじゃない?」


「おっと、失礼。言い方が悪かったです。つまり、誰か他の怪盗とするのです」


「ああ、対戦か」


 そういえば、怪盗同士で『対戦』をするシステムも存在するのであった。


 あまり需要は無いのだが、どちらが先にお宝を盗めるのか競争するのだ。


 基本的に怪盗は手を組んでお宝を盗む人が多いため、対戦を好む怪盗は珍しい。


 正直、血の気の多い怪盗のマニアックな手段と言ってもいいだろう。


 だが、だからこそ、物珍しさから人々の目に留まる可能性も高いのかもしれない。


「マスター、どうでしょう。対戦は得意ですか?」


「そうだね。嫌いじゃないね」


「ほう、意外です。性格的に争ったりするのは苦手だと思いましたが……」


「対人戦の方がやりごたえはあるからね。ゲームは難しいほど挑戦したくなるんだ」


「なるほど。そうでなくては一人であのゲームをクリアーするなんて酔狂はできませんか」


 難しいゲームに挑む事自体は好きである。

 特にコミュニケーションを必要としない対戦だったら歓迎とまである。


「でも、対戦を受けてくれる怪盗なんているのかな?」


「ふふ、それに関してはマスターの場合、むしろ有利ですよ。なにせランキング最下位です。周りの奴らはマスターの事をよいだと思って対戦を受けるに違いありません」


 なるほど。理にかなっている。

 ペアとして協力するならランキング最下位である僕と組んでも不利になるだけだが、対戦なら簡単に勝てる相手という認識で受けてくれるかもしれない。


「おまけに敵は油断している可能性が高いです。マスターなら油断した雑魚なら余裕でしょう」


 ニヤニヤと悪い笑みを作るフォト。

 悪知恵に関しては有能となるのは褒めるべきなのか微妙な所であるが、有効な作戦には違いない。

 今の僕だからこそできる戦略だ。


「相手はむしろ高ランクの方が良いですね。イキッた高ランク怪盗を実は低ランクだけど最強だったマスターが瞬殺する。くはっ! 何と素晴らしきざまぁか! ぐふ、ふふふ」


 いつの間にかフォトは妄想にふけって気持ち悪い顔で笑っていた。

 完全に悪役である。


「フォト、性格悪いよ」


「黙らっしゃい! 今はそういうのがウケるんです! 流行も知らぬにわかめが!」


「はあ、すいません」


 我がブレインであるフォトさんは、この作戦がかなりのお気に入りらしい。


 まあ、仕方ない。

 作戦自体が有効な手段であることは否定できない。


「相手は……そうですね。怪盗メギドがいいですね。ああいうイキった雑魚をぶちのめすのが最高の快感です。マスター、ワンパンでお願いしますね!」


「いやいや、相手はランキング2位だよ。むしろ返り討ちに遭うんじゃないの?」


「はっ、何言ってるんですか。あんなの雑魚ですよ。マスターが勝つに決まっています!」


 もう勝った気でいるフォト。

 やるのは僕だというのに、調子のいい子である。



「おい、聞こえたぜ。誰が雑魚だって?」



「…………へ?」


 急に誰かから話しかけられたので振り向くと、そこにいたのは怪盗メギドだった。

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